「妻が浮気してるんだ。だけど、浮気を知ったのにまったく怒りがわかないんだ。」窓辺にて 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
妻が浮気してるんだ。だけど、浮気を知ったのにまったく怒りがわかないんだ。
稲垣吾郎演じる市川の恋愛観ってどんななんだろう。少なくとも性欲は感じられない。それが今時なのだろうか。この夫婦の性生活はうまくいっているのだろうか、それがなくても成り立っているのだろうか、と他所ながら心配してしまう。少なくとも、市川にとってSEXは必要な要素ではないらしい。しかし、妻はどうだろう。市川のやさしさから愛を感じられているのだろうか。
そして若葉竜也演じる友の有坂にとって、夫婦生活に倫理は必要ではないのだろうか。ちょっとお茶をするくらいの気軽さで浮気をしているのではないか。その妻はどうか。夫の浮気を知りながら何もできず、その怒りを市川にぶつけてはいないか。むしろ、自分に対して腹を立てているんじゃないか。
玉城ティナ演じる久保留亜は、そんな彼氏で満足しているのか。君の知性と釣り合わなくとも、自分を心底好きでいてくれるだけでこの後も続いていけるのだろうか。
そんな、なにか歯車がかみ合っていないような、どこか不釣り合いな、夫婦とカップルばかり。傍目には幸せそうな人たちなのに、誰もが大なり小なりの不満と悩みを抱えてる。それでもストーリーが荒れないのは、吾郎の醸す中性感が毒気を吸収してしまうのかもしれないな。誰もが経験する、何かを手に入れる、または手放すという行為は物に限らず、人との出会いもそうなのかもしれないが、すべて無駄ではないのだろう。迷うことも、悩むことも無駄にはならない。それが人を成長させるのだから。むしろ、いいな悲しめて、というゆがんだ羨望さえ抱く。そう、迷っている時間は贅沢、という感覚。その無駄なものに対して、せめて正直であること、それだけでたいてい上手くいくような気がする。少なくとも、市川の周辺では。エンディングに流れてきた沢辺渡の歌声を聞きながらそう思った。