「SF」窓辺にて いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
SF
「フィクション?」、否「SF」 なんていう噛み合っていない台詞回しも今泉節健在と言ったところだろう。
常に聞き返す受け答え台詞も同様で、心此処に在らずという配役をアテレコではないだろうかと勘ぐる程、稲垣吾郎の絶妙なオトボケ演技が冴える作品である。
沢山のパンチラインと暗喩、そしてその解釈や読み解きに映画ファンや評論家等にとって"腕が鳴る"内容なのではないだろうか
主題となるのは『自分探し』
感情の欠如を抱いている男が、妻の浮気に心情が動かないという自身に生き辛さを感じながら、その答えを近しい周りに求め回る事で自分の肯定感迄行着くのかという粗筋である
もし同じ境遇に陥ったら…自分ならば怒りに震える。但しそれは愛情や嫉妬ではなく、蔑ろにされたというプライド攻撃への反応なのであろうことは想像に難くない。そこには他者への想いなど微塵もなく、単に自己愛の現れというかなりの恥ずかしい内面なのだと思う。そんな自分がストーリーでの登場人物の新進気鋭の女子高生作家の天真爛漫さと繊細さの同居という極端な混交物さが発する『捨てることで他者に愛を表わす』という哲学的問い掛けに重要なヒントを得たような、そんな収穫であった。主人公は結局、最後迄自身の欠落?をみつけることはできない。でも代わりにその佇まいに周りは頼ってくる。あれだけ毛嫌いしていた女子高生の彼氏から相談を受けるのだから・・・
酒もたばこもやらない主人公は、迷える子羊にとって神聖化された存在なのだろう。但し本人はそれ以上に自分の自己評価の低さに苛まれているのだろうが・・・
バイクでタンデムする、パチンコをする、ラブホで女子高生と一夜を共にする(行為無)という、妻の浮気をきっかけに、初体験を積み重ねながらもそれでも変化に乏しい状況が却ってリアリティを醸し出していて、人間なんて早々変わるモノではないことを表現していて大変興味深く鑑賞出来た。
秀逸なのは、浮気相手の若手作家(この人とサッカー?選手の区別が分らなかったので当初戸惑った)の、現在の生活基盤故の小説を、代わりに作ってみたので読んで欲しい件のシーンが本作のキモであろう。そう、まるで主人公は響かないのである。但し、それは若手作家はその主人公を媒介にして執筆できた時点で、その貴さを確認してしまったのである。
何だか今話題の"カルト"の匂いに強引に結びつけてしまいがちだが、決してそうではなく、自覚せずとも引力、若しくは重力の強い人間というのは存在する、そんな1人の人間を題材とした作品である。