「ヴァレ監督の遺した愛情と破天候さに満ちたファミリードラマ」C.R.A.Z.Y. 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ヴァレ監督の遺した愛情と破天候さに満ちたファミリードラマ
2010年代を代表する映画監督ヴァレの遺した、破天荒さと温もりと音楽に満ちたファミリードラマ。ケベック生まれの彼だけあって、60年代から80年代にかけてのケベックにおける中流家庭の家族のクロニクルをおかしく、騒々しく、実直に刻んでいる点で、文化的にとても興味深い。いつしか同性に惹かれていく主人公。対する父親は子供らに「男らしくあれ」とさとし、そこにはピリピリとした緊張感が生まれる。しかしこの家庭には揺らぎはしても決して断ち切られることのない絆があり、価値観の違いを凌駕する愛情でいつも覆われているかのよう。どれだけ崩れそうになっても、また誰かが遠くへ飛び出したとしても、常にこの家庭が「帰り着く場所」としてあり続ける安心感はこの上ない。主人公ザックがクリスマス生まれなのに対し、ヴァレ監督は12月26日(2021)に亡くなった。彼もまた紛れもない「特別な子」であったことを、今いちど噛みしめたい。
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