「マイノリティ映画と余裕」C.R.A.Z.Y. 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
マイノリティ映画と余裕
2005年。ジャン=マルク・ヴァレ監督。なくなった監督の初期のヒット作(日本未公開)。カナダ・ケベック州で育ったザックの主に少年期から青年期(70年代)を描く。すでに公開当時でも目新しさはなかった同性愛者としての自覚と周囲(特に父親)との葛藤を描いているが、そこだけに焦点が当たっているわけではなく、カトリックとの関係、兄弟との関係、友人との関係、世界への開かれとアイデンティティの模索、などが奇妙に配合されて独特の「プライベート感」を醸し出している。ただのLGBT啓蒙映画ではない。
不思議なプライベート感は時間経過を示すカットつなぎにも表れていて、このカットの次のシーンでは時間が経過していると思わせるのだが、なかなか時間が進まない。それが停滞感を生み出すわけではなく、描かなければならない別の側面があるのだということが事後的にわかる。あまりにサクサクと展開していく最近の映画にはない余裕のある展開。それが全体的にマイノリティの苦しみではくくれないゆえんなのかもしれない。マイノリティであるという「プライベート感」=苦しみや葛藤=ではない余裕。この余裕が、その後、監督が世に送り出した情感あふれる映画の数々にも通じていたのかもしれない。監督のご冥福をお祈りします。
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