「雄大な自然映像と普遍的な人間ドラマが胸を揺さぶる」帰れない山　牛津厚信さんの映画レビュー（感想・評価）

ベストセラー小説の映画化だが、大自然をめぐる雄大な映像に触れた時、これは「映画化されるべくしてされた物語」だと確信した。北イタリアのモンテローザ山麓で交錯するのは、二人の幼なじみの人生だ。都会育ちのピエトロはいつしか自分の居場所を探して世界中を旅して回り、自然の中で生きてきたブルーノは「ここでしか生きられない」と村から一切動くことはない。そこに亡くなった父をめぐる記憶がノスタルジックに重なり、さながらこの映画は過去と現在が溶け合わさるかのように、有機的な感慨となってゆっくり流れていく。荒々しくも神秘的な輝きに満ちた山々。土の匂い、木々の香り。対照的ながら共感せずにいられない二人の生き様・・・。監督は本作について「コロナ後における地球との再接続の意味を込めた」と語っているが、なるほど、映像と人間ドラマによって意識がみるみる覚醒するかのようで、その言葉の意味するところが身に染みてよく分かった。