劇場公開日 2023年10月14日

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「もう、あそこのパンは食べないの。」ヨーロッパ新世紀 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0もう、あそこのパンは食べないの。

2023年11月17日
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鑑賞方法:映画館

ドイツに行けば差別されるルーマニア人が、自分たちの村では今度はスリランカ人を差別する。人種、宗教の異なる相手が自分たちより下(とは勝手な優越感なのだが)と見れば、排除することを正義だと信じる人々。古今東西、人間の内面に自我と欲望が存在する限り、歴然とあり続ける問題だものな。この映画の話が他人事のつもりだったのに、「アジア人って日本人じゃなかったのね」と残念がるシーンを見て、ちょっとほっとしている自分もいる。やはりどこかで差別する意識があるからなのだろうな。ヨーロッパの地域間格差の詳細は不勉強だが、ルーマニアが周辺強国の狭間できゅうきゅうと生き延びてきたことは理解できた。そういった人々が偏狭で偏屈なのも、例えば日本の戦乱期の山あいに暮らしていた百姓たちを想像すれば、同じだろうと思う。どの国でも、どの時代でも、人間は一緒なのだ。そして思う、自分はどちら側なのだろうか。もしくは、どちらでもないのだろうか。もし、自分が村人の立場にいた時、スリランカ人の握ったパンを食べることに躊躇うのだろうか。迷うことなくパンを食わないと同調するのだろうか。逆に気にしないと思えた時に、俺はパンを食べるって言える勇気があるだろうか。

栗太郎