「 「エヴァの告白」「アド・アストラ」で宇宙のかなた、「ロスト・シテ...」アルマゲドン・タイム ある日々の肖像 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
「エヴァの告白」「アド・アストラ」で宇宙のかなた、「ロスト・シテ...
「エヴァの告白」「アド・アストラ」で宇宙のかなた、「ロスト・シテイZ 失われた黄金都市」でアマゾンのジャングルへの探索を壮大なスケールで描いたジェームズ・グレイ監督が、1980年代の米ニューヨークを舞台に、自らの少年時代をもとに描いた自伝的家族ドラマ。
1980年、ニューヨークのクイーンズ地区。父親のアーヴィングはアメリカン・ドリームを現実のものにすべく日々懸命に働いており、決して悪い父親ではなかったが、短気に過ぎるところがあった。そのせいもあってか、ポールは祖父のアーロンに人生の導き手を見出していた。
誰もがアメリカンドリームを信じていた80年代。ニューヨークのクイーンズ地区が舞台。芸術家志望で夢見がちな12歳のポール・グラフ(バンクス・レペタ)は、ウクライナ系ユダヤ人の一家に生まれ育ち、同地にある公立学校に通っていました。でも窮屈な学校教育や集団生活になじめません。父親のアーヴィング(ジェレミー・ストロング)、母親のエスター(アン・ハサウェイ)の心配もどこか疎ましく感じる。そんな彼のよき理解者が温厚な祖父アーロン(アンソニー・ホプキンス)でした。
ポールは芸術への高い関心を有していたが、その手の生徒の例に漏れず、学校の雰囲気に上手く馴染むことができずにいました。ただ、自分同様に問題児扱いされていた黒人生徒、ジョニー(ジェイリン・ウェッブ)とは打ち解けることができたのです。
ところが、学校のトイレでタバコを吸ったことをきっかけに、2人の友情は崩れ去っていくこととなります。そして、2人の人生の明暗もここからはっきり分かれてしまうのです。中流家庭に育った白人であるポールは私立学校への転校によって立ち直ることができましたが、黒人の貧困家庭に育ったジョニーはそのまま転げ落ちていくしかなかったのでした。
グレイ監督の少年時代が投影されたポールと祖父アーロンとのほほ笑ましいやり取りが、その後のキャリアや作風をほのめかしていて興味深いところ。
温厚なアーロンであるものの、ウクライナ時代には、厳しいユダヤ人迫害を意見していて、人種差別には激しい反感を抱いていたのでした。ポールにもそういうものに直面したら戦えと檄を飛ばすのです。
親戚で囲む食卓など、セピア色の古いアルバムをめくるようなエピソードが続きますが、そんなアーロンの思いとは裏腹に、ポールと同じクラスの黒人生徒ジョニーとの挿話にほの暗さが漂っていくのです。
ユダヤ系の中流家庭で家族の愛情に包まれたポールに対し、頼れる身内もなく、貧困の連鎖から抜け出そうともがくジョニー。2人がしでかした悪事がきっかけで、白人優越主義という社会の理不尽を目の当たりにします。そしてポールが学んだことは、この世の中は理不尽に溢れているが、それを受け入れて乗り越えていくしかないのだという差別容認の父親のアーヴィングの言葉でした。
ふたりの運命を分けた瞬間、諦めとポールへの羨望が入り交じったジョニーの相貌が忘れられません。
冷戦の緊張感と経済的な発展、根深い人種差別など、アメリカの光と影を身をもって体験していく12歳の少年の葛藤と成長。芸術家になる夢をかなえた監督が内省的に原点を見つめ直した。まぶしくも、切ない心の旅路でした。
但し、劇中でもグラフ一家は、アメリカ大統領選挙で候補者のレーガンにブーイングしカーターを連呼したり、民族多様性を前面に打ち出すなど作品を通じて、民主党色一辺倒の作品でした。