「ひたすら楽しかった!この時代に観るべき作品」エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス Yuhideさんの映画レビュー(感想・評価)
ひたすら楽しかった!この時代に観るべき作品
息つくまもない怒涛の展開で、最高の映画体験でした!
マルチバースを使いながらのアクションは新鮮なアイデアだらけ。冒頭のポシェットを使ったヌンチャクアクションは格好よかったし、料理人スキルや、ピザ屋の看板スキルを使ったカンフーも最高だった。
バースジャンプするのに、おかしな行動をするというのもさまざまなパターンで笑わしてくれましたね。リップクリームを食べちゃう、愛してると相手にいきなり言う。究極は硬いトロフィーのようなものをお尻に突き刺す。突き刺そうとする男たち、突き刺すことをやめさせようとする。どんな戦い!?
マルチバースであることで、イフの人生を思う。もしかたらあったかもしれない。エヴリンはランドリー屋で税金に追われ、頼りない旦那、親の介護、娘の反抗期にうんざりしている。この人と結婚しなければ?中国に残って女優として成功する未来があったことがわかる。
だけど、自分が不幸だからこそ輝く未来の分岐をしたわけで、バースジャンプだと平凡な人ほど、強い力を得られるという設定はいい。主人公に実は能力があった系ではない。
ラストのバトルも、相手を叩きのめすのではなくて、相手が満足する要望を満たして、戦闘モードを解除するのもいいアイデア。力と力の戦いにうんざりしている。ダメなウェイモンドのまずは相手を理解しようとする姿勢からのバトルは見ていて、笑いながら爽快感を味わえた。
家族の物語に帰結するのもすばらしくて、今の自分に向き合うしかない。タイムループものよりも、マルチバースものはそれが明確になる。並行世界で生きられるわけではないから。ほかの世界の自分がまばゆく見えていても、この世界を生きるしかないのだ。
エヴリンが夫のウェイモンドとの日々を否定してはいけないと気づく演出は、過去回想を使って見事。とにかくウェイモンドは魅力的で、温和なのにカンフースキルがすさまじく、ダンディさもある。この人主役でもずっと見れる。
そして娘との対峙。ジョイは同性愛者でそれをエブリンは隠そうとする。お父さんの偏見からくるわけだけど。ジョイが暴走して、ベーグルというブラックホールですべてを無にしようとするのは、さまざまなマルチバースの体験から絶対がないことに気づいたから。なんでも可能性がある、フラットな世界であることへの空虚さ。いまのネット世代の感覚を象徴している。
エブリンが同性愛を認めてもすぐに2人が和解するわけではなく、一度ジョイが去ろうとして、エブリンが近づいて本音を突きつける。太りすぎとか話しながら、それでも「一緒にいたい」と伝える。それだけは間違いなくいまの自分の感情。
本当に意味のある時間はほんのわずかしかないというジョイの言葉を受けて、「ならそのわずかな時間を大切にしよう」とエブリンは提案する。
ぐっときて涙が流れた。
この時代に観るべき傑作だと思う。