「軽口と冷静の交差が心地よい」シャイロックの子供たち td.mさんの映画レビュー(感想・評価)
軽口と冷静の交差が心地よい
銀行を舞台にした不正事件の物語です。設定だけ聞けばいかにも社会派サスペンス然とした印象ですが、意外にぬるめの温度で楽しめる作品でした。
物語は、現金紛失事件をきっかけに、銀行内部のドロドロした裏事情を描いています。登場人物たちは皆、どこかで嘘をつき、どこかで誤魔化し、どこかで逃げています。その中で阿部サダヲ演じる西木が、皮肉と正義感を絶妙にブレンドしたキャラクターとして物語を牽引しています。
そして上戸彩演じる北川愛理。彼女の演技は、派手さこそありませんが場面の空気を整える力がありました。特に声のトーンと間の取り方のバランスが秀逸。
阿部との掛け合いでは軽口と冷静さが心地よく交差しており、事件の緊張感を煽るのではなく、観客の感情を整理するような存在になっていました。
ある映画監督が「良い女優は声が特徴的」と語っていましたが、確かにその通りだと思います。綾瀬はるかや長澤まさみのように、声が演技の印象を左右する女優は少なくありません。そして、上戸彩もその一人ですね。
彼女の声には、柔らかさと芯があり、物語の温度を一段階引き上げていたのは間違いないと思います。
その温度が、ちょうど観る側の体温に近かったように思いました。
評価 ★★★★☆
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