「理性と欲望の物語を、意表を付く映像表現で見せる一作」アラビアンナイト 三千年の願い yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
理性と欲望の物語を、意表を付く映像表現で見せる一作
『マッドマックス』シリーズの創始者で、その最新作『マッドマックス 怒りのデスロード』(2015)の鮮烈な印象も未だ生々しいジョージ・ミラー監督による古典物語の映像化。
『アラビアンナイト』と銘打たれているだけに、ジンと呼ばれる魔神(イドリス・エルバ)は登場するんだけど、シンドバッドも空飛ぶ絨毯も登場しない、しかも現代劇まで含んだ、あくまでミラー監督版の『アラビアンナイト』となっています。
序盤から終盤近くまでは、主にジンの語る3つの物語を中心に展開するという、いかにも『アラビアンナイト』的な構造となっています。一つひとつの物語は、かなり過激な要素も含んだ欲望の物語なのですが、映像的にもアングルや演出がまさにショット単位で入念に考え抜かれていて、一つとしてありきたり、と感じさせるような映像がないという気合いの入れっぷり。この残虐さと猥雑さを炎でくるむような映像美は、まさにミラー監督ならではと言えるもので、画面中に刺激に満ちています。
後半になってくると、アリシア(ティルダ・スウィントン)の物語に軸足が映っていくのですが、ここから奇想天外な映像美から一転して、場面によっては定型的とも思えるようなショットが含まれるようになります。こうした映像的な変化と物語の方向性の不明確さが相まって、人によってはやや冗長に感じられるかも知れません。
しかしこの「理性と欲望の相克」こそ恐らくミラー監督が本作で描きたかったテーマなのか、この場面で交わされる会話は非常に考えさせられる要素を含んでいました。ノンストップ・ハイファンタジー映画と思わせておいて、そうは問屋が卸さない、という底知れなさこそが、ミラー監督作品の魅力なのかも知れません。