「 反戦に加え、自己本位になり、人への思いやりをおろそかにしていないかと物語は問かけます。」ホワイトバード はじまりのワンダー 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
反戦に加え、自己本位になり、人への思いやりをおろそかにしていないかと物語は問かけます。
2017年製作の映画「ワンダー 君は太陽」の原作者が同作のアナザーストーリーとして執筆した小説「ホワイトバード」を、「チョコレート」ののメガホンで映画化。
遺伝子の疾患で、「普通の子」とは違う顔で生まれた少年オギーと家族を描いた「ワンダー 君は太陽」(2018年公開)。同作の原作者R・J・パラシオが手がけたスピンオフ小説を、同じ製作者たちが映画化しました。前作で主人公をイジメていた少年ジュリアンが祖母サラの話に耳を傾けるという回想が本作の主軸。少女時代のサラをナチスから救った同級生ジュリアンにスポットを当てて描かれます。心を豊かにしてくれる感動作です。
●ストーリー
「ワンダー」でオギーをいじめて退学になったジュリアン(ブライス・ガイサー)は今もどこか投げやり。転校先で居場所を失っていたジュリアンに、パリから祖母サラ(ヘレン・ミレン)が訪ねてきます。孫の行く末を心配するサラは、彼に封印してきた自らの少女時代について話し始めます。
1942年、ナチス占領下のフランス。ユダヤ人であるサラ(アリエラ・グレイザー)は、学校に押し寄せてきたナチスに連行されそうになったところを同じクラスの脚が不自由でいじめられっ子の少年ジュリアン(オーランド・シュワート)に助けられ、彼の家の納屋に匿われます。クラスでいじめられていたジュリアンに全く関心を払わなかったサラを、ジュリアンと彼の両親は命懸けで守ってくれます。サラとジュリアンが絆を深めていくなか、終戦が近いというニュースが流れますが…。
●解説
理不尽な状況に投げ込まれた少女の衝撃を体感しつつ、隠れ家生活にハラハラし、サラを匿った一家の勇気と優しさが身に染みます。ユダヤ人迫害ものとしては若干ベタなところもありますが、青春映画としての爽やかさとほのかな恋も味わい深いところです。同じ名を孫につけた思いや意味に胸打たれます。さらに終盤訪れるある悲劇には、ジワッと泣けてきました。
反戦に加え、自己本位になり、人への思いやりをおろそかにしていないかと物語は問かけます。サラが2年以上も隠とん先の納屋でジュリアンやその家族と過ごし、絆を深めていく過程は、当たり前ですが、つい忘れがちなそんなことを思い起こさせてくれることでしょう。
いじめた側の救済まで描かなければ、「ワンダー」の真の世界観は完結しないという作者の決意に胸を打たれました。
サラが納屋で空想の世界を広げるシーンなど、美しい映像表現も見ものです。監督はソンビ作品から心温まる人間ドラマまで、ジャンル不問のマーク・フォースター。チェコでの撮影では印象深い風景を映し出し、若手俳優の演出も得意なのでしょう。その堅実かつ独創的な仕事ぶりが光る作品です。