劇場公開日 2023年4月21日

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「80年代、フランス、アップデート」午前4時にパリの夜は明ける 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)

4.080年代、フランス、アップデート

2023年4月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2022年。ミカエル・アース監督。1981年、パリ。病気がちで繊細な専業主婦は夫が家を出て落ち込んでいるが、高校生の娘と息子を育てなければならない。自身がファンだった深夜ラジオで職を得るが、仕事も人間関係もなかなか安定しない。路上生活をしている若い女性を助けるがその女性が息子と関係を深めていくことで、生活はさらに複雑になっていく。やがて新しい恋人ができ、娘も家を出て、広いアパートを売ることを決意する、、、という話。
シャルロット・ゲンズブールが繊細な女性をほとんど地で演じている。さすがというほかない。劇中でエリック・ロメール監督の、これまた繊細きわまりない「満月の夜」が上映され(ちなみにこれは傑作です)、劇中の人物が主演のパルカル・オジェにシンパシーを感じているあたり、きわめて80年代的な感覚が生き生きと表現されている。
なにがすごいって、80年代のフランス(パリ)が、生活レベルを「縮減」していく感じがよく表れていること。要するに、稼ぎ頭を失った家族がアパートを売る決意をするまでの話なのだが、娘も息子も特に偉大な人物になりそうな気配はないし、野心を抱いているようにも見えない。これといった志ももたず、生活レベルが徐々に下がっていくのが80年代のフランス(パリ)なのだ。同時にそれは、専業主婦が仕事を得て、繊細な感覚と折り合いをつけ、新しい恋人を見つけてたくましくなっていく過程(女性の社会進出)でもある。その背景にあるのは、新自由主義が根を張る以前の、社会党のミッテラン大統領の時代である(映画はミッテランの大統領選挙勝利の夜から始まる)。つまり、80年代のフランス(パリ)のある家族が、仕事やジェンダーについての感覚をアップデートしていく様子が丁寧に描かれている映画なのだ。

文字読み