「アタシとマリコは生きていく」マイ・ブロークン・マリコ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
アタシとマリコは生きていく
シイノとマリコ。
二人は大親友。
性格も口調も姉御肌なシイノに対し、マリコはピュア。真逆の方が上手くいく。(例えば、黒澤明と本多猪四郎)
他愛ない話をして、夢を語り合って、悩みも打ち明けて。
学生時代から一緒。これからも。いつか一緒に暮らして、おばちゃんになっても。
ずっと、ずっと。
そんなマリコがある日突然、死んだ。
マリコは父親から虐待を受けていた。
ある時付き合っていた彼氏からも暴力を受けていた。
シイノはその都度力にはなっていたが…。
マリコはアパートから飛び降り自殺。ニュースでそれを知って絶句。
自分は親友を助けてあげる事が出来なかった。
そんな亡き親友の為に、今、自分は何が出来るのか…?
いつか話していた二人で海に行く。
シイノはマリコの遺骨を奪い、親友と最後の旅に出る…。
アパートに乗り込んで両親から遺骨を奪う。
仕事も放っぽり出して。
やってる事はムチャクチャだが、根底にあるのは女二人の美しく、感動的な友情。
…そんな綺麗事だけじゃない。
“親友”と言ったが、確かにそうではあるが、それ以上のものを感じる。もっと濃密な。
一見シイノがマリコを支えているようだが、シイノ自身もマリコに支えられているような気がする。
マリコがシイノに助けられているようだが、マリコもシイノを助けているような気がする。
お互い相手に依存しているようであり、本当に自分にとって、居なくてはならない存在。
自分の一部。身体の一部。心の一部。一心同体のような。
だからこそ見えてくる、明るくてキャピキャピキラキラだけじゃない関係性。
シイちゃんの子供になりたい。
シイちゃんに恋人が出来たら死ぬから。
そのくせ、自分は恋人を作る。
自由奔放、天真爛漫とは違う。何処か“壊れている”マリコ。
シイノの目の前でリストカット。何か無い日なんて無い。
その恋人から暴力。フライパンを振り回してまで守るシイノ。が、会いたいと言われ、会いに行くマリコ。腕を骨折…。
激昂するシイノ。バカじゃないの! ぶっ壊れてるんじゃないの!?
そうだよ。ぶっ壊れてるの。何処から直したらいいか分からない。
父親からは虐待だけじゃなく、性的強要も。
誘った私が悪い。
ピュアだが、儚げで、今にも壊れそう。いや、壊れている。
そんなマリコを、時々面倒臭く思うシイノ。
どんなに仲良くても、相手を煩わしく思ったりする事もある。
相手を本気で思うからこそ、苛立ち、キツくなったりする。
綺麗事だけじゃない、リアルで生々しい感情のぶつかり合い。
だからこそ、胸に迫る。
永野芽郁と奈緒が体現。いや、シイノとマリコとして、そこに存在。
永野芽郁は新境地。キュートなイメージを捨て、足をおっ広げて煙草を吸い、啖呵も切るやさぐれ感。その雰囲気や佇まいにカッコよさすら感じる。
奈緒の今にも壊れそうで、危うくて、繊細で複雑な演技は絶品。ちょっと恐ろしさすら感じたほど。
永野芽郁は普段は煙草を吸わないらしいが、役の為に吸えるよう練習。奈緒も劇中で読まれた手紙は数通だったが、読まれなかった手紙も自分で書く意気込み。
NHKの朝ドラで共演して以来、プライベートでも仲良しという二人。再共演も願っていた。
役作りも役へののめり込みも、やり取りもお互い思い合う様も、ただ演じただけじゃない。本物の感情のようだ。
他キャストはそんなに多くないが、窪田正孝が好演。
ひったくりにバッグを盗まれてしまったシイノの前に、たまたま通りすがった青年。遺骨の番してくれたり、お金を恵んでくれたり、歯みがきを差し入れたりと親切。
「ここ、死ねないんですよ」と、何が訳ありの過去。
「もう居ない人と会うにはあなた自身が生きていかなければならないんでしょうか。あなたの中の大事な思い出とあなた自身を大切にして下さい」…別れ際の彼のこの台詞が素敵だ。
尺は90分弱。その中に、インパクトあるストーリーやメッセージ、テーマ。名作コミックを巧みに映像化。
ハートフルでコミカルな中にシビアさや感動も。
硬軟併せ持ったタナダユキの演出。
思い立った旅の果てに、アタシはマリコの心に辿り着けたのか。何かしてあげられたのか。
またいつもの生活に戻る。クソみたいな会社、つまらない人生。
もうマリコは居ない。その喪失は深すぎる。
ねぇ、アタシはどうすればいいの…?
迷いそうになった時、思い出す。今もまた、手紙を読んでこみ上げてくる。
ずっと忘れないこの気持ち。
アタシが生き続けていく限り、マリコもアタシの中で生き続けていく。
あの頃も、今も、アタシとマリコは一緒。
一緒ならば、きっと生きていける。