「一つの家族、の愛の形」この子は邪悪 たでうすさんの映画レビュー(感想・評価)
一つの家族、の愛の形
美しい家族の愛の形。
印象に残るのは、お父さんに関する二点。
主人公の娘の視点で物語は進んで行くが、登場人物、特に父親の視点から物語を想像すると作品の見え方が更に面白くなった。
一つは愛情の強さ。「家族のためなら世界がどうなろうと構わない」、この考えは間違えだろうか。作中には家庭内暴力に関する題材とそれを嫌悪する主人公の父がいる。我が家が平穏だから初めて周囲の人に優しくなれる、世界の平和を願うことができる。私自身そう思うことが多々ある、たとえ利己的だと言われても。
答えの出ない問いかけが、この作品を観た人の反応を大きく変える。私がこの映画を好きになった理由がここです。
もう一つは、「たった一滴」のファンタジー。作中には上記のDVなどの現実的な題材、主人公の父親も心療療法士という実在の職を持つ人物。パンフレットを読むと元はぬいぐるみに魂を持たせる設定からスタートしているらしい。魔法世界ではなく、リアルな世界の中に一つだけ幻想を、黒い幻想を落とし込む。アニメならありそうだが実写映画でそれを「実現」させたのはとても面白かった。人によっては「ウソだ!」と言うかもしれないが、それこそが物語だと私は強く思う。
ゾンビも宇宙人も出てこないが、この物語はとびきりのファンタジーだ。「魔法のステッキ」の代わりは出てくるなぁ、とこの感想を書いていて思い出した。
一つの幻想(ファンタジー)が世界を歪めていく、強すぎる愛ゆえにイビツになっていく。
私はそのイビツさが愛しくてたまらない。
(ちなみに私はタルコフスキーの「サクリファイス」がSFだと気付くのに10年かかった。それを思い出した。)
最後のエンドロールが始まるまで楽しみ尽くせる極上のエンターテイメントでした!