「 最初、年代物の記録映像に比してやたら明瞭な音響のギャップに驚く。...」バビ・ヤール QuantumGRさんの映画レビュー(感想・評価)
最初、年代物の記録映像に比してやたら明瞭な音響のギャップに驚く。...
最初、年代物の記録映像に比してやたら明瞭な音響のギャップに驚く。エンドロールで追加された録音であることが種明かしされる。
ドイツ・ポーランド・ウクライナ・バルト三国・ソ連の戦間期から第2次大戦までの概要を知っていないと、映画を理解することは難しい。平均的日本人にはNHKのドキュメンタリーのような解説を適宜織り込まないといけないレベル。エイゼンシュタインに連なる映像作家としては、人工音響モンタージュで解説なしの自立した作品にしたかったのだろう。
<歴史的事件が時間経過とともに、淡々と映像が流される。何の映像かを理解するために必要な基礎知識を大雑把に記します。>
独ソ不可侵条約(モロトフ・リッペントロップの秘密議定書)によりドイツとソ連によるポーランドやバルト諸国の分割を押さえることが重要と思います。独ソ不可侵条約はすぐにヒットラーにより破棄され、ドイツはポーランド・ソ連に侵攻します。
このときウクライナはソ連による農業集団化やクラーク(富農)撲滅が特に苛烈でによる300万以上の死者をだした大飢饉(ホロドモール)を経た状態であったので、ウクライナの人々はナチスドイツを解放者と見做した。
1941年約3万人のユダヤ人がウクライナ警察の手によってバビ・ヤール峡谷に集められ虐殺され焼却された。ロマ、精神病者、共産主義者、捕虜、パルチザンなども殺された。
自ら谷に飛び込み死んだふりをした生存者も出てくる。ロシア・ウクライナには16世紀以降ユダヤ人への殺戮・略奪・破壊(ポグロム)が間歇的に起るユダヤ人差別が苛烈な歴史を持っている。したがってユダヤ人への同情どころかナチスと一緒に暴行する人たちも存在した。
スターリンはヒットラーとの不可侵条約を信じており、赤軍改革派のトゥハチェフスキー元帥を筆頭に9割の赤軍将校を粛清した。弱体化した赤軍は突然のドイツ軍の侵攻に対応できず2000万から3000万人の犠牲を出し、反攻に転じたのは1943年になってであった。ウクライナが赤軍によって解放されると、ソ連を解放者として迎えた。
第2次世界大戦後ニュルンベルク裁判でバビヤール虐殺に関わったドイツ軍人が裁かれた。戦後バビヤールは産廃で埋められアパートや公園ができ、記念碑を残すのみである。
記録映画としての性格が強いので、完結した映画として鑑賞したい向きには好まれないでしょう。観てはいないのですが、ドンバスの方がモンタージュ的手法でよくできているのではないかと推測いたします。