「「必見!」とは言えないなぁ」コーダ あいのうた pekeさんの映画レビュー(感想・評価)
「必見!」とは言えないなぁ
家族愛をテーマとし、自分の夢と現実生活のあいだで揺れ動く高校生の苦悩や奮闘を描いた作品。
いい話です。
いくつか印象的な場面がありましたが、とくにクライマックスの音楽学校の入試のシーンはよかったです。
ルビーが、もう試験のことなんか忘れて、家族のために歌う。そして家族がひとつになる。その光景は感動的でした。
この試験のシーンから結末にかけての流れもなかなか見事だった。試験会場で歌うルビーの『青春の光と影』が続いたまま、途中で場面が変わっていき、ルビーとその家族に希望の光が射してきたことを、説明的にならずに簡潔に示しています。
でも正直言って僕はあんまりこのファミリーに感情移入できなかったです。お母さんが妙にオシャレだったり、お父さんのかなりクセの強いキャラにもちょっと抵抗感がありました。それから「これ必要なのかな?」と思う性描写があったりで(「PG12」の理由が分かりました)。どれも聾者を変に美化しない、彼らも健常者と同じ人間なんだということを表現したかったのだろうけれど……。
あと、「V先生」がルビーの才能を見出す過程にもう少しインパクトと説得力が欲しかったようにも思います。ただ歌が上手なだけじゃなく、名門バークリーに推薦するだけの突出した才能に出会ったわけだから。ついでに言うと、先生のレッスンもなんかちょっと抽象的な感じがしました。これも理論的で、「なるほど!」と納得させるような演出があればもっとワクワクしたような気がします。
それにしても『青春の光と影』は名曲中の名曲ですね。この作品の成功の半分くらいは、この曲のおかげ、ジョニ・ミッチェルのおかげなんじゃないかという気もしないでもないですが、やはりこの曲を上手に使った監督の手腕を讃えるべきでしょうね。
確かにいい映画です。それは認めます。でも、忙しい中、時間を割いて観にいくほどの作品ではなかった、というのが僕の感想です。本作の公式サイトには、「必見の1本!」と書いてありますが、そこまでの作品ではないと思いました。まあ好みと相性の問題ですが……。