劇場公開日 2023年8月25日

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「私たちは表面しか知らない」君は行く先を知らない うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0私たちは表面しか知らない

2023年9月2日
PCから投稿

イラン当局の厳しい検閲と戦いながら映画制作を続けるジャファル・パナヒ監督の息子パナー・パナヒ氏の長編デビュー作。国境の町に向かう長男に同行する両親と弟と愛犬の旅を追ったロードムービーである。
口下手で不器用な父、塞いだ息子、はしゃぐ弟、ピリピリした母が、それぞれの別離に向かい車を走らせる。

ポスタービジュアルの明るさとロードムービーというジャンルのイメージに反し、本編は皆まで言わないシーンの連続で、娯楽性に乏しいように見えるかも知れないが、イランで映画を制作するためには世相の描写はこのくらい抑えた表現にせねばならず、検閲を通りやすくするために記号的に入れた方がいいポイントもあるとのこと。描きたいものを描くためにこの形に纏めた制作陣の苦労が伺える。

例えば現代イランを描いた最近の公開作品「聖地には蜘蛛が巣を張る」の制作陣が、イランにルーツを持ちながらヨーロッパを拠点に活動しそこから作品を発信しているように、イランでは本物のイランを描けないのだ。

そういう視点で見ると、家族の元を離れる決意をした長男とそれを支援した両親の葛藤、真実を知らないうちに兄と愛犬と別れた次男の今後、そして非合法な方法で別れた家族のそれぞれの暮らしなど、描くことを許されなかった部分に想像を掻き立てられる。深堀りすることで味わいが深まる作品である。

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うぐいす