劇場公開日 2023年3月24日

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「微妙な距離にいる6人の男女の愛憎が通り魔事件に繋がっていく様を淡々と見つめる台湾版『ルールズ・オブ・アトラクション』」青春弑恋 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0微妙な距離にいる6人の男女の愛憎が通り魔事件に繋がっていく様を淡々と見つめる台湾版『ルールズ・オブ・アトラクション』

2021年11月14日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

舞台女優のユーファンがバイトをしている喫茶店にやってきたのは元船上シェフのシャオジャン。昔ユーファンに告白したことがあるシャオジャンは、議員をしている父の再婚披露宴の後物憂げにスマホを見つめているユーファンに声をかけ少しずつ二人の距離は近づいていく。ユーファンが父と暮らす家には資産家の息子ミンリャンが同居しているが、ニートのミンリャンはVRゲームとネットで話題のAV女優モニカに夢中になっている。そのモニカは実はユーファンが所属している劇団の女優でユーファンの親友。一方のミンリャンに一方的に恋をしている女子高生キキはシャオジャンがバイトしている中華料理店の娘、普段はおとなしいが、実はゴリゴリのコスプレイヤーで、キキに夢中になっている男子ビリーが探してきた不動産の空き物件でコスプレ撮影に興じている。そんな微妙な近距離にいる6人の思惑が交錯する中、台北駅で通り魔事件が発生する。

本作を観ている最中に真っ先に連想したのはブレット・イーストン・ハリスの原作を映画化したロジャー・エイヴァリー監督の『ルールズ・オブ・アトラクション』。登場人物がそれぞれ惹かれ合っているのにどの思いも全く報われないという残酷な不条理も、登場人物達の裏の顔をこれでもかと見せる悪趣味なまでの赤裸々もそっくり。しかし本作が更に掘り下げているのは人間の素顔とはそれを見ている人間によって異なるということ。一見どうしようもない人間であっても、別の誰かから見ればかけがえのない人間かも知れない。自分から見えている光景だけで世界が構成されているわけではないとは知りつつも、自分が見えているものだけでしか世界の良し悪しを判断出来ないなら、ちょっとボタンを掛け違えただけで悲劇はあっさりと引き起こされる。そんな無情を容赦なく描きながらもドン底を味わった人間の再生も温かく見つめている、そんな分厚いドラマでした。

よね