「いつかこの映画すら忘れてしまうのだろうか」モスル あるSWAT部隊の戦い 終焉怪獣さんの映画レビュー(感想・評価)
いつかこの映画すら忘れてしまうのだろうか
多くの紛争・内紛・戦争映画を観てきました。
平和な日本に生きる我々からしたら想像も付かない戦闘行為...
観賞するその度に「この惨状を忘れないでおこう」と思いました。
多くのドキュメンタリー映画を観てきました。
日本人のモラルからしたら信じがたい非人道的な国の実態や歴史...
観賞するその度に「この悲劇を忘れないでおこう」と思いました。
しかし数日、数ヶ月経つと私達は忘れる。
作品のタイトルと内容は覚えていてもその時感じたものは消えている。
そもそも「忘れないでおこう」と云う認識自体が驕り、間違っている。
安全地帯で生きている私達の意識なんてその程度なんです。
この作品がアメリカで公開されたのが2019年。
日本でももっと早く観たかった。
2019年と言えば「アベンジャーズ エンドゲーム」。
アメリカでは、方向性の違うルッソ兄弟作品を連続して観れたとは...羨ましい。
冒頭、ISILをダーイッシュと呼ぶ説明が流れますが、ここだけでも好印象。
当時、ISILをイスラム国と呼称するメディアがあり、本当に残念でした。
本当のイスラム教徒の皆様に失礼極まりない呼称でしたからね。
劇中で描かれるのはイラクの日常。
私達にとっては非日常。
SWAT部隊とダーイッシュの戦闘描写は本当に凄まじい。
混戦ともなれば敵味方の識別は困難。
その中での仲間への誤射(フレンドリーファイア)、
手榴弾が壁に当たり跳ね返ったり等の
戦場でよくある状況も描かれており、よりリアリティを増しています。
敵兵の即処刑に疑問を抱く主人公カーワ。
心優しかった人間が徐々に狂気に呑まれていくのは、戦争映画のあるあるですが、カーワの変化は恐ろしかったです。
ナイフでダーイッシュをめった刺しにするシーンは、何とももどかしい気分にさせてくれます。
部隊の隊長であるジャーセム少佐。
劇中、彼の人柄が分かる描写がある。
安全地域へと向かう道中、親の死体を運んでいた孤児を保護し、任せられる夫婦を探す。
地面に落ちているゴミをゴミ箱に捨てるシーン等。
それ故に終盤、何気なく机を整理し、下にあった爆発物によって...
戦争においてドラマチックな人の死は無い...
警察官時代は、本当に良き人格者だったのだろう。
戦場を移動する中で隊員達の個性や人柄が、伝わって来るので1人、また1人と死んでいくのは辛い...
最後、独立愚連隊ともなっているSWAT部隊の目的が判明する。
その目的を知って、想いを巡らすカーワ。
そして仲間に言う。
「家族に会いに行こう」と。
その表情と台詞に胸が締め付けられた。
いつかは忘れてしまうかも知れないあるSWAT部隊の戦い。
それでも今だけは覚えていて欲しい。