「“盗油”という題材はユニークで良し」パイプライン 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
“盗油”という題材はユニークで良し
冒頭、最初の盗油場面をベンチャーズのインスト曲「パイプライン」で盛り上げる演出にぐっと引き込まれる。「マルチュク青春通り」などで知られるユ・ハ監督にとって、本作(兼脚本)は初の犯罪娯楽映画だそう。それぞれ専門の技能を持つ面々を寄せ集めたチームが、荒稼ぎするために違法なミッションに挑む――という映画はよくあるが、狙うのは現金、宝飾品、美術品、高級車あたりが定番。だが、石油パイプラインにドリルで穴を開けて大量の石油を盗むという題材は目の付け所がいい。
油まみれの泥臭い作業かと思いきや、穿孔を得意とする主人公ピンドリはスーツ姿で颯爽と現場入りし、あえて貫通する1ミリ手前で止めてパイプの内圧の変化を利用するなど細かいテクニックの話などでも楽しませてくれる。盗油するポイントまで地中に穴を掘り進めるくだりは、銀行強盗や脱獄ものに似た趣もある。
ただまあ、題材はユニークではあるが、いかんせんメインディッシュに相当する穿孔作業が絵的な派手さで少々弱い。それを補うためか、依頼主である大企業経営者とその手下らや、盗油を阻止しようと見回りに来る警察との駆け引きや騙し合いをドタバタコメディで描いたり、家族愛の要素を添えたりして、単調にならないようあれこれ無理やり詰め込み、散漫になった印象も。さして後に残るものはないが、それもまた娯楽作の良さかもしれない。
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