「悪夢の袋小路。見せかけの千里眼では己の運命までは見通すことは出来なかった。」ナイトメア・アリー レントさんの映画レビュー(感想・評価)
悪夢の袋小路。見せかけの千里眼では己の運命までは見通すことは出来なかった。
舞台は第二次大戦開戦時のアメリカ。人々が皆不安に苛まれたそんな時代につけこみ、のし上がろうとした男がいた。
近親憎悪により父親を殺害した過去を持つスタンは唯一の財産であるラジオを携えて行くあてもなく彷徨っていた。そんなある日、彼は見世物小屋の一座に紛れ込む。
手に職があるわけでもなく学もない彼だが、野心だけは人一倍あった。この一座の中で抜け目なくスキルを身に着けた彼は飲んだくれのピートの読心術に目をつける。ピートを殺害し、そのノウハウを奪った彼は一座のモリーと駆け落ちし、ショウビジネスの世界へとのし上がってゆく。
彼の読心術ショウはたちまち成功し羽振りはよくなったが、それでも彼の野心は飽き足らず、次第に危険な領域へ。
人々が不安に苛まれていた時代、どんなに社会的地位が高く、富に恵まれた人間でもその空虚な心までは満たすことは出来ない。そんなセレブたちの心の隙間につけいったスタン。
ピートやジーナたちの警告を無視して、心理学者のリリスと組んでセレブリティに取り入り大金を手にしてゆくが、その行いはもはやショウの域を超えていた。
影の権力者グリンドルをだましたことから追われる身となった彼は妻も財産も全てを失ってしまう。
結局、ピートの忠告通り自ら作り上げた噓で人々を不幸に誘い、自身も破滅に向かってゆく。
逃亡生活の果てにたどり着いたのはかつて彼が這い上がってきたはずの見世物小屋と同様の一座だった。そこにはエノクの標本と彼のラジオが。
思えば、スタンの運命は初めからこのエノクに見透かされていたのかもしれない。
誰もが忠告した危険な幽霊ショウはセレブたちの心の隙間につけいりうまくいったかに見えた。しかしそれは破滅とも紙一重。
そんな危険なショウに身を投じてしまったスタンはすでに悪夢の袋小路に足を踏み入れてしまっていたのだ。抜け出したと思った悪夢の小路から悪夢の袋小路へと。
もはや彼はそこからは抜け出せない。そう悟った彼は獣人になることを受け入れるのだった。
見せかけだけの千里眼、読心術でかりそめの富を築いたところで、それは元いた見世物小屋での日々と何ら変わらぬもの。
未来を見透せるはずの千里眼を持ったエノクが母の胎内で暴れ命を失ったように、自らの野心で自らの身を亡ぼしてゆく男の様を描いたデルトロ面目躍如の作品。
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