「過去への二重の憧憬と訣別」SAYONARA AMERICA nomさんの映画レビュー(感想・評価)
過去への二重の憧憬と訣別
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細野晴臣というミュージシャンは時代ごとにカメレオンのようにその音楽性を変化させ続けてきた。キャリアも半世紀になる細野が近年傾倒していたロック以前の1950年代のアメリカンミュージックの集大成となった、2019年のアメリカ公演のライブを軸にこの映画は構成されている。
注目すべきは、たった2年前のライブであるにもかかわらず、コロナ以前/以後という社会的心理的断絶が存在することである。楽曲の合間に、現在の細野が遥か昔に感じられるというコロナ以前を振り返るカットが何度も挿入されている。特に象徴的なのは、伸び切った髪の細野が、ビルの屋上でギターを爪弾く映像を背景にしたモノローグのシーンである。
2019年から1950年代への、そして2021年からコロナ以前の時代への二重のノスタルジアが通奏低音としてこの映画に流れている。そして、細野自身の意思表示としての「サヨナラ・アメリカ(、サヨナラ・ニッポン)」によって映画は締め括られている。共にポストコロナという未だ見ぬ時代を目の前にした私たちに、細野の決意は共鳴するに違いない。
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