「めっちゃノーランみを感じる」ちょっと思い出しただけ といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
めっちゃノーランみを感じる
完全にノーマークの作品でしたが、めちゃくちゃ評価が高かったので鑑賞。恋愛映画であるということは事前に聞いていましたが、具体的な内容については全く知らない状態での鑑賞です。
結論ですが、良かった!!事前情報を全く観ていなかったのが逆に良かったのかもしれませんね。本作の映画の特殊な構成によって、序盤に感じた違和感が「そういうことだったのか!」と解消される瞬間の爽快感は、事前情報があったら得られなかったと思います。
構成に凄く既視感がありましたが、クリストファー・ノーラン監督の『メメント』ですよね。最初は一瞬「どうなってるんだろう?」って思うけど、観ているうちに「あ!そういうことか!」と気付き、構成の上手さに驚かされます。
昨年公開の『花束みたいな恋をした』と内容が似ていると言われていますが、どちらかと言えば『(500)日のサマー』の方が近いように感じます。ただ、どの作品も独自性があって素晴らしい映画ですので、『ちょっと思い出しただけ』が気に入った方は『花束みたいな恋をした』『(500)日のサマー』もオススメします。
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怪我によってダンサーへの道を諦めて舞台照明の仕事をする照生(植松壮亮)と、タクシードライバーとして働く葉(伊藤沙莉)。二人のさりげない日常を描きながら、東京の町での人々の人生の機微を描く。
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大きな事件が起こらないのに、些細な会話が続くだけなのに、全くダレるシーンがなく楽しめる。会話の一つ一つが、きちんと意味を持って存在している感じが見て取れる。
植松壮亮さん演じる照生の誕生日(7月26日)を一年ずつ遡っていく物語構成のおかげで、「将来こうなるんだ」というのが分かった上で二人のイチャイチャを見せられている感じ。足を怪我した照生がダンサーとしての夢を諦めざるを得なくなり、葉と喧嘩して二人の関係性が崩れてしまった日。その展開を知っている状態で、その一年前に「来年の誕生日にプロポーズしよう」って言っている照生を見せられるわけです。観ていて苦しい。こういう「一年後が分かっているからこそ、何気ない言葉が刺さる」というシーンが結構多いんですよね。
小物に意味を持たせているところも素晴らしい。
特に印象に残っているのは「ケーキ」と「バレッタ」。ダンサーを目指している照生は厳しい食事制限を行なっていたため、自分の誕生日であってもケーキはほとんど食べません。せいぜいクリームをちびちびと啄んだり、ケーキの上に乗っかってるイチゴを食べるだけです。しかし、劇中には2回ほど、照生がガッツリとケーキを食べるシーンが登場します。つまりそれは「ダンサーとしての夢を諦めている」ことを表しているんです。髪を切ってからもバレッタを手放さなかったのは、ダンサーとしての夢とかつての恋人である葉への思いを断ち切れていない証左です。
劇中には上記のようなディテールにこだわりを感じるシーンが多数ありましたので、本当に細部まで作りこまれた脚本や画作りがなされているなと感じます。こういう作りこまれた映画は大好きです。観終わった後、観た人同士で「ここが良かった」「このモチーフにはこういう意味合いが含まれてそう」と語り合うのも面白そうな映画です。
役者陣も非常に素晴らしく、特に主演の二人は文句なしです。個人的に、コンパでイマイチ周りの雰囲気に乗れずに居酒屋の外に出た葉をナンパする男の役で、お笑い芸人であるニューヨークの屋敷さんが出てきたのは驚きました。後からニューヨークさんのYouTubeチャンネルを見てみたところ、本作の監督である松居大悟さんとは古い友人らしく、その繋がりで出演したらしいですね。そこそこ台詞量もある役だったんですが、演技は普通に上手だったので全く違和感なく観ることができました。
間違いなく、今映画館で観るべき映画でした。本当に面白かったです。
オススメです!!!