「極悪」パーフェクト・ケア U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
極悪
俺がこの手で殺したかった。
あるのかないのか分からないけど、後見人制度を悪用し、莫大な富を築く悪魔のような女の話だった。
冒頭、頭ごなしに先制パンチを喰らう。
一般的に浸透してるスローガンや、理念は管理する側が植え付けた妄想だ、とかなんとか。
以前「ハゲタカ」を見た時にも思った。
社会の根幹を成すルールは大勢をコントロールする為だけに必要で、そのルールを破った人間こそが成功への階段を昇れるんじゃないかと。
それと似たような事が語られる。
穏やかな気持ちでいられたのは、開始10分くらいまでだった。彼女が構築したシステムが披露された後は、ずっとイライラしながら観る事になる。
医者と結託し、診断書を偽装し、本人不在の状態で後見人を受諾する。
法的な執行力のある書類を手に、1人住まいの老人宅に向かい、老人ホームへと移送する。
その直後から、家財道具から家屋に至るまで財産を処分し換金していく。本人への確認もなしに、だ。
こんな暴挙が違法ではなく合法で行われる。
裁判官まで結託してたら手の施し様がない。
彼女達は老人を老人ホームという名の監獄に放り込む。まるで終身刑のようであり、死んでようやく開放される…退所=死だ。
それまでの自由は剥奪され、管理しやすいように痴呆症等のレッテルが貼られる。
…なんちゅう状況だ??
そして、また、彼女はカモを見つける。
いつもと同じ。同様の手順を踏んで利潤を貪り尽くすだけだった。
だけど、その老婆はマフィアのボスの母親だった。
こっからは彼女達の日常が揺さぶられていく。
今まで盤石だった足場が、いきなり崖っ淵の如く不安定になる。
もう、マフィアを応援してる俺がいる。
生き地獄を味合わせろ!
追い込むんだ!
…もう何を観にきたのか、分からなくてなってる。
彼女達に訪れるであろう「無惨な死」を期待し、懇願までしている。
こんな奴らがのさばってるのならば、神も仏もあったもんじゃないだろう!!
…神も仏も居なかった。
彼女達はデスゲームに勝ち残り、巨万の富を手にする。
社会的な成功を手にした彼女は、ビジネス誌の表紙を飾りTVに出演している。
爽やかな笑顔に美しい白い歯。
その背中に無数の屍を背負っている事を誰も知らない。…悔しい、のである。
あるはずの良心が全く見えない。
いあ、何かが欠けている。
だからこそ、普通は踏めないアクセルを事も無げに踏み込めてしまう。
…この敗北感はなんなのだろう?
そのアクセルを踏み込む勇気が俺に無い事は確かだ。
彼女は成功の為ににリスクを選んだ。
そのリスクを跳ね除け成功を掴んだ。
決して褒められた道順ではないが、それに是非を問えるの己のみだ。
成功の頂で、幸せを謳歌してる時、彼女は撃たれる。
「あぁ、こんな奴の血も赤いんだな」
それが最初の感想だった。
コイツも人間だったんだなぁと、不貞腐れる。
彼女はたまたま殺されたけど、まだ審判を受けてない悪人達は無数にいるのだろうなと、無力な自分を嘲る。
観終わってみると画面に釘付けではあった。
9割くらいは負の感情ではあるけれど。
主役は見事であったし、その標的とされた老婆も流石であった。物言わぬ視線が恫喝にしか見えない…老婆の目に怒りの感情はカケラも見えない。
でも、彼女は明らかに殺意を纏っていると思える。
…戦慄が走った。
極悪な主役だけど、極上の作品だった。