「観終わっても不快感が続く」パーフェクト・ケア 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
観終わっても不快感が続く
悪党と被害者と無能な裁判官だけが登場する。善人はほとんど登場しない映画である。悪党は合法マフィアと非合法のマフィアだ。いずれも血も涙もないが、必要に応じて涙を流すフリをする。ほぼ白人しか登場しない映画で無能な裁判官を黒人にしたのはどうしてか。悪意を感じてしまうのは当方だけではないと思う。
裁判所の命令は絶対だ。期限内に異議申立をしても、命令が覆ることはない。裁判官も役人だから、自分の間違いは絶対に認めない。認めるのは死ぬときだ。そういえば日本でも誤審を認めて自殺した裁判官がいた気がする。
介護ビジネスの業者が法定後見人になるというアイデアは素晴らしい。しかし介護ビジネスを営んでいれば合法的な後見人になれて、財産を管理することができるというのは本当だろうか。日本でも同じことができるのだろうか。もしかすると既にやっている介護事業者がいるのだろうか。業者と医者と裁判官が結託すればどの国でも出来そうな気がする。邦題の「パーフェクト・ケア」は身柄を押さえて財産も管理するという意味で、原題よりも秀逸なタイトルだ。
日本にも法定後見人という制度はある。成年後見制度だ。親族でなくても市区町村長や検察官が申立をすることが出来る。裁判官や検事を巻き込むのは難しそうだから、介護事業者は医者と市区町村長に金を渡して結託すればいい。金持ちの老人を狙って申立をし、財産を管理する。高額の介護費用を請求して、管理している財産から合法的に振替える。財産がなくなる頃に死んでもらえば部屋が空く。
生活保護制度を悪用した貧困ビジネスというのがあるのは有名な話だ。住所がないと生活保護を貰えないから、アパートを借りてひとり1畳程度のスペースに分割してホームレスを住まわせて住民登録をする。支給日にはホームレスを行列させてひとりずつ現金で受け取らせて、住居費として巻き上げる。ホームレスの手元に残るのは1ヶ月生きていけるかどうかのはした金だ。それでもないよりはいい。取り締まるのは生活保護を支給するのと同じ役人だが、相手はヤクザだ。暴力を恐れて逆らわない。警察の組対係が取り締まればいいのだが、これは民事だとして取り合わない。警察の中にはヤクザと裏でつながっている人間もいる。持ちつ持たれつだ。しかし忘れてはならないのは、生活保護費は国民の税金だということである。
主人公マーラ・グレイソンの永遠にうまくいきそうな介護ビジネスだが、序盤からずっと割り切れない印象が続く。この悪女はいつ罰せられるのか。あのアホな裁判官がいる限り、悪女のやりたい放題が続くのだろうかと想像して、嫌な気持ちになる。ストーリーが進んで悪女の運命が二転三転しても、やっぱり嫌な気持ちは続いた。
どう考えてもグレイソンは日本の貧困ビジネスのヤクザと同じなのだ。窮地に陥っても詐欺師らしく知能で乗り切るのかと思いきや、暴力には暴力で対抗する。合法ヤクザから非合法ヤクザへの転落である。ジムで鍛えているシーンはその伏線だったのだが、それがまた不愉快きわまりない。不愉快な気持ちは映画を観終わってもしばらく消えなかった。
おっしゃる通り観終わっても不快感が続くので、その日に以前見た『きのう何食べた?』を見てしまいました。2回見るつもりはない映画だったのですが、気持ちを静めるために予定変更。