劇場公開日 2022年12月2日

  • 予告編を見る

「記録もの」あのこと R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0記録もの

2025年2月4日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

2022年ノーベル文学賞受賞者アニー・エルノーの自叙伝小説「事件」の実写版
この文字が最後に表示されることでアニーこそアンヌだったんだとわかる。
1960年代のフランス 堕胎禁止法
この時代背景と若者たちの姓への欲望の実体験が描かれている。
実話だけに評価するのは難しい。
ノーベル賞受賞がこの作品を映画化して世に出すきっかけとなっているが、そうしなければ評価されないというのは、どこでも同じかもしれない。
特に自国の過去の黒歴史をあからさまにすることは、フランス人にとって面白くないことなのだろう。
自国の負の部分は絶対に見せないのが彼らの在り方のように思う。
日本では様々な作品によって、自分たちを常に等身大に評価しようとする風潮があるが、他国ではそれが難しさなのかもしれない。
主人公アンヌ 私の父と同じ年齢 その時代のフランス
妊娠とは女性にとって人生で最も大きな出来事だろう。
「女に選択肢はない」
この言葉こそ、彼女を作家にさせた原動力なのだろう。
妊娠中絶が刑罰の対象というのは、1920年に制定された「堕胎教唆および避妊プロパガンダの抑制に関する法律」によるようだが、その概念は第一次世界大戦で人口が著しく減少したことによる。
出生率を上げるためにフランス政府がこの法律を作った。
さて、
アンヌは一人で悩み続けていたが、親友に相談しても「関わらない」と言われ、男子の友人ジャンに相談したら「妊娠のリスクがないからヤラせてくれ」と言われる始末だ。
その張本人は「オレに罰を与えに来たのか? 帰るんならオレは何もしない」という。
これがその通りであるならば、これこそフランス国民の人間性を見たように思った。
ただジャンはそれでも潜りの中絶屋を探し当ててくれた。
やはりフランスでも持つべきものは友と言ったところだろうか。
アンヌの視点
両親
友人

大学
何もかも失いそうになりながら孤独に葛藤しているのが、この作品なのだろう。
選択肢のない中で必死になって中絶してくれるところを探しつつ、自分自身の変化に戸惑う様子がよく描写されている。
善悪は時代によって変わるというのは、この作品にもよく表れている。
自分で何とかするしかない。
本やネックレスを売って資金を作る。
足らない分は、売春で補ったのだろう。
そうしなければ、どうにもならなかったという時代
勝手に始めた戦争の代償は、いつも国民が負担することになるのだろう。
調べると、
「フランス社会は、過去の過ちを認識し、それを乗り越えるための議論を重視する傾向があります。エルノーの作品がフランス国家の過去の問題を指摘することで、社会全体がより良い方向に進むための反省材料となると考えられています」
そういうことであれば、よかったんじゃないかな。

R41