「凄まじい鑑賞体験」あのこと ゆきさんの映画レビュー(感想・評価)
凄まじい鑑賞体験
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フランスで中絶が違法とされた時代、様々な障壁にぶつかりながらも、主体的に人生を選び取ろうと、もがき苦しみ、最後は命を懸けて自由を勝ち取る女子大生の話。
女性の欲望を、否定も隠しもせず、自然にあるものとして描いている。
少し前にマツコが言っていた、「人は「性」からは逃れられないし、それに対してどう距離を取るのか、眼差すのかがその人の人格形成に大いに影響している」という言葉を、見ている間ずっと考えていた。その意味では、主人公は主体的に性を選ぼうとするし、自分からバーに出掛け、セックスもする。
そこで受ける、男たちからの性的眼差しや偏見の渦、(当時の時代性もあるだろうが)絵に描いたような無理解。
「性」はいくら剥ぎ取ろうとしても脱げない仮面であり、引き剥がそうとしてはこびり着いて執着して回る、脅迫観念のようなものである。
この映画で印象的なのは、音と息づかいである。決定的な場面こそ見せないが、主人公視点からの苦しい表情や痛みに悶え苦しむ声、押し殺しながらも耐え切れずに漏れる息づかいで、観客を深い深い身体の海に引き摺り込む。
最後に、ある場所で静寂を破るように、静かに、確かに響く、ある音。そこで観客の緊張に決着が着き、一瞬、終止符が打たれる。からの、ブレながら何が起こったか見せようとするカメラワークと主人公の一言で、それまで緊張を続けてきた観客の鼓動の速さにドライブがかかる。あー、これはまだ終わりではない。
最後も、晴れてよかったでは終わらない苦さが残る。苦さというより、非常にひりついた痛みである。
凄まじい鑑賞体験。覚悟が出来れば、ぜひ劇場で見て欲しい作品。
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