劇場公開日 2022年12月2日

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「すっげぇものを観せられた気がする。“あの”映像は一生目の裏に焼き付いて離れないだろう。もう一度観たいと思わないだろうけど、死ぬまで(あと20~30年位?)忘れられないと思う映画。」あのこと もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5すっげぇものを観せられた気がする。“あの”映像は一生目の裏に焼き付いて離れないだろう。もう一度観たいと思わないだろうけど、死ぬまで(あと20~30年位?)忘れられないと思う映画。

2022年12月4日
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鑑賞方法:映画館

①終始一貫してアンヌの視点で語られるので、正直最初の四分の一ほどは少々かったるい。この歳になると女子大生の日常などには興味がない。それで⭐半分だけ減点。
しかし、時が進みアンヌも焦りだして決断・実行を迫られるようになってからは俄然スクリーンから目が離せなくなる。
②この映画は決してアンヌを非難し弾劾するのが本意な映画ではない。
中絶が犯罪だった1960年代のフランスでうっかり妊娠し挙げ句コッソリと中絶した女子大生の話に過ぎなければ、“今度からもうちょっと気いつけや”で終わる話だし。男にとってはそうでも女性にとってはそうではないだろうけども(考えてみれば重荷を背負わされるのは女性だけ、というのもジェンダーレスの現代から見れば不公平な話だ。)
③なのに、ああそれなのに、それなのに、男なのに、女性の生理もわからんのに、あまりの臨場感に、だんだんアンヌの後悔・絶望・誰かに助けて欲しいという渇望・勉強も手につかない焦り・何とかしなきゃという気持ち、そして決断、実行に対する不安・恐れにまるで自分のことのように同化していく。
そして、それと同時に、自分にも若いときに私生活や仕事で軽はずみな言動や行動、考えなしの言動や行動でドツボに落ち込んだり、にっちもさっちも行かなくなって、自分だけで或いは誰かに助けられて苦境を脱したことが同時に脳裏にフラッシュバックする。
そういう意味では人間が人生のどこかで遭遇し経験したことを共有できるユニバーサルな映画体験とも言えるだろう。
④堕胎が良い悪いという問題提起型映画でも、堕胎が犯罪だという法が正しいのかどうかを問う社会派映画でもない。もちろん映画を見終わった後でこの問題について考えたり誰かと議論するのは構わないけれど。
これはあくまで、原因はどうであれ人生における二者択一を迫られて今現在の自分の人生で大事だと思う方を選ばざるを得なかった人間の話。自分で選んだ道だから後悔はないだろうけど恐らくアンヌにとっては後々の人生でも忘れられない出来事だっだろう(だから原作者も自伝的小説にしたのだろうから)。
⑤命の重みという問題ももちろん出てくるだろうけれども、個人的には人の命と動物の命と植物の命と、命の重みにどう違いがあるの?という考え方の持ち主なので、ここではこれぐらいにとどめておきます。
⑥あそこまで突っ込んだ映像表現が出来たのも女性監督ゆえだろう。
トイレでの、降りてきた胎児(の形にもなっていないのかな?)を映したところは殆ど正視出来なかった。アンヌもすぐ目をそらしたので、あれ以上見なくて済んだが。へその緒をアンヌが自分で切れなくて友人に切って貰うところでは、切らされた友人も災難だなと気の毒になったけれど。
ニュースで時々報じられる一人で堕したり産んだりする女性は、あれを一人で行うわけで、ホント女性は大変というかスゴいなぁ、というのが正直な感想。
⑦アンヌの母親役がサンドリーヌ・ボネールだと後で知りました。映画では分からなかった。
モグリの堕胎医(というのかな)を演じたオバチャンは最初あまりに声が低くて男かと思ったくらい。若い時はシャネルのミューズに選ばれたくらいの人だったらしく、やはりここでも女性ってスゴいわ、と思わされる。
⑧アメリカで再び人工妊娠中絶(堕胎)の禁止が叫ばれるようになっている現在、結局罰せられるのは女性だけというこの問題、男としてもっと感心を持たなくてはいけないな、と少し思わされた。

もーさん