「人は人との繋がりを心の糧にして生きていく」ディア・エヴァン・ハンセン みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
人は人との繋がりを心の糧にして生きていく
観終わって奥深い余韻に浸ることができる秀作である。ブロードウェイミュージカルの映画化作品なので、派手な劇的展開の物語だと想像していたが、全く違っていた。シリアスな青春ミュージカルだった。ミュージカル作品の場合、歌と歌でない部分の繋がりがギクシャクすることが多いが、本作は台詞をそのまま歌にした感があり、歌と歌でない部分との繫がりが非常に良く、物語が澱みなく自然に進んでいく。登場人物達の心情は心情に合った旋律と歌詞で表現されるので、音楽の力で、より深く心に刺さる。主人公に強く感情移入できる。主人公の孤独の闇に寄り添うことができる。
本作の主人公は、家庭でも学校でも居場所がない孤独な高校生エヴァン・ハンセン(ベン・プラット)。ある時、彼は自分宛に書いた手紙を同級生コナーに奪われる。その後コナーは自殺し、両親は、その手紙をコナーが主人公宛てに書いたものだと誤解する。主人公は、両親をこれ以上悲しませたくないと考え、コナーの親友だと偽り、コナーとの思い出の作り話をしてしまう。この作り話は関係者の感動を呼び、SNSを通して世界中に拡散される・・・。
ベン・プラッドは、ブロードウェイミュージカルでも主役を務めており、主人公役を完全に熟し切っている。内気で自信の無い佇まい。会話の時のオドオドした態度。級友と話す同級生を観る時の羨望の眼差し。孤独の闇を彷徨する絶望感と、そんな彼に声を掛けて欲しいと渇望する切な過ぎる歌声。どれを取っても非の打ちどころがない。
図らずも、嘘によって彼の渇望は実現する。嘘をつく時の雄弁さに孤独の闇からの解放感が溢れている。彼の嘘は彼の願望である。そうであって欲しいと考えていた友人関係、友人との会話を流暢に吐露していく。
終盤、紆余曲折を経た主人公は、どんな時でも彼の孤独の闇を照らす人は必ずいると信じて再生していく。
“人は人との繋がりを心の糧にして生きていく”という言葉が心に深く刻み込まれた作品だった。