「寂しさから、また寂しさに戻る」ディア・エヴァン・ハンセン Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
寂しさから、また寂しさに戻る
ベン・プラットは歳さえ気にしなきゃ、脆弱な樹木のようなエヴァン・ハンセンを演じて、なかなかに素敵でした。
突然の友人
寂しさに悩むエヴァン・ハンセンが、自分と通じるものがあると感じたコナーの死に際して思わず嘘をつく。それは自死したコナーを悼み、コナーを失った両親をいたわるだけでなく、自分の孤独を救うためでもあった。
しかしやがてエヴァン・ハンセンは、こんなレアなケースに遭遇して初めて「友人」ができる自分がいたたまれなくなる。屈折して、かついじましい物語。
大衆に押し潰される
エヴァン・ハンセンの嘘は、素晴らしい話としてSNSで拡散されて、若者たちの運動にも繋がっていく。しかし、この若者たちの賞賛の嵐の空々しさ感は、これもこの作品のテーマの一つであることを感じさせました。大衆は一人一人の集合体ではなくて、一個の巨大な生き物。勝手に持ち上げ、勝手に沈める。個が対峙するのは、極めて難しい。
寂しいが爽やかな風
嘘の親友は当然の成り行きで崩壊して、実りかけたゾーイとの恋も破局した。今まで参加していた世界から弾き出されて、エヴァン・ハンセンはまた寂しい生き物になる。まるで夢から覚めたように肌寒い顔をして、それでも少しずつ自分を取り戻していくが、ゾーイとの仲が修復されることはない。
現実味たっぷりの寂しい幕切れは、それでもPCに向かうエヴァン・ハンセンの姿には爽やかな感じさえ見られて、映画としての読後感は悪くなかったです。
不思議なミュージカル仕立て
ただ、やはり他の方のレビューにあるように、ミュージカルの映画化にあたり、何故このような形式のものになったのか、スッキリした理解は得られません。コナーの父母やエヴァン・ハンセンの母までが、セリフの途中から歌い出すのには着いていけなかった。
ただ、光を求めて孤独から旅立とうとする人々を象徴するために、ミュージカル仕立てにしたと言うのはあるかなと思います。