「時間の流れ、輪廻転生、人類のよって来たる源についての考察など」MEMORIA メモリア 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
時間の流れ、輪廻転生、人類のよって来たる源についての考察など
ティルダ・スウィントンは、そのロンパリ気味の大きな目と、常に半開きの口元のせいで、外見はかなりミステリアスである。カメラ目線でまっすぐこちらを見ているようでも、どこか遠くを見ている感じだし、開いた口から言葉が出そうで出ない。何を考えているのかまるで見当がつかないのだ。ラブストーリーよりも魔女や幽霊や超能力者が似合う女優さんである。
さて、本作品はなかなかレビューの難しい映画である。少なくとも、短気な人には向いていないことだけは分かる。森、山、空などのひとつひとつのシーンが長い。街なかのシーンでさえ、登場人物なしの長回しなのだ。隣の年配の客は最初からエンドロールまでずっと寝ていた。
ジャンル分けも難しい。強いて言えば超心理学SFだろうか。コロンビアを舞台の超常現象というのも違和感があるし、主人公が住んでいるのがメデジンだ。メデジンといえば、メデジンカルテルしか思い浮かばない。物凄く危険なところだというイメージだ。絶対に行きたくないと思っていた。しかし映像を見る限りではそんなに物騒な感じではない。当然といえば当然だ、戦場ではないのだから。ただ体格がよくて強面の男たちがたくさん映っていて、やっぱりメデジンには行きたくないと思った。
象徴的な場面がいくつかある。若いエルナンが言った「Depth of Illusion」、考古学者が6000年前と推測した若い女の頭蓋骨に開けられた穴、まるでつけて来るみたいな大きな野良犬、中年のエルナンとのノンバーバルな交流、それに音の正体である超常的な光景などだ。
理解し難い部分が沢山ある作品だが、時間の流れ、輪廻転生、人類のよって来たる源についての考察などが製作者のモチーフとして感じられる。スウィントンが演じたジェシカは旅人である。空間を移動する以外に、時間も移動しているような印象である。本人が意識していないところで違う時間に入り込む。ジェシカが移動する過程が時間と空間のつながりそのものとなる。
そういう意味では、ヒロインは中性的で思索的でストイックである必要がある。ジェシカの役はティルダ・スウィントン以外に考えにくい。それは本作品がいい作品だったということなのかもしれない。
015🎬さん
コメントありがとうございます。
「百年の孤独」は私も読みました。ジプシーで賢者のメルキアデスがとても好きでした。物事の真相を観相するという点では仏教的な小説なのかもしれません。
本作品のアピチャッポン監督は、上座部仏教、つまり輪廻転生を思想の中心とする仏教の国であるタイの人です。本作品には強くその思想を感じました。とても哲学的で思索的な映画です。