「五輪に沸くこの時期に公開すべく企画された作品に歩調を合わせるかのように迷走する現実を背景にあくまでも食欲をそそるパンケーキと稲庭うどんが印象的な“政治バラエティ映画”」パンケーキを毒見する よねさんの映画レビュー(感想・評価)
五輪に沸くこの時期に公開すべく企画された作品に歩調を合わせるかのように迷走する現実を背景にあくまでも食欲をそそるパンケーキと稲庭うどんが印象的な“政治バラエティ映画”
“パンケーキおじさん“こと第99代内閣総理大臣菅義偉の素顔に迫るという体ですが、本作の最大の課題はご本人が取材に応じるわけがないこと。もちろん総理に近い議員はおろかマスコミ、評論家、ホテルやカフェまでが取材拒否。ということで、取材先の様々な言い訳の羅列から映画はスタート。石破茂、江田憲司、村上誠一郎といった現役議員、朝日新聞の元記者鮫島浩、『菅義偉の正体』を著したジャーナリスト森功といった総理をよく知る人達から聞く赤裸々な人物像。ご飯論法で知られる上西充子教授による学術会議の任命拒否に関する質疑応答等国会の名場面珍場面の爆笑解説。しんぶん赤旗がスクープした官房長官時代に消えた官房機密費・・・次から次に繰り出されるネタの一つ一つがコントのように見える辺り、監督自らが称している通り“政治バラエティ映画”。
堅苦しい話を解りやすく噛み砕いて要所要所で放り込まれるシニカルなアニメはマイケル・ムーアやアダム・マッケイの常套手段で、米国では毎週末にやっている風刺が封印されているこの国でこれがやりたかったというルサンチマンの発散が爽快。菅政権の本質を様々な角度から考察する一方で、政権が何度入れ替わろうとも揺るがない政治不信と諦観がまた不透明で不誠実な政治を強固なものにしているという断ち難い悪循環も赤裸々に語る。ブラックユーモアをたっぷりと振り掛けているのにスクリーンに大きく映し出されるパンケーキと稲庭うどんはしっかりと観客の食欲をそそる。この時期に公開すべく企画された本作の封切日に合わせるかのように現実が迷走し、本作がこじ開けた風穴をさらに大きく穿っていく様を眺めているのは実に爽快。しかしながら本作が目指すところはその風穴が奏でる異音が若い世代に届くこと。残念ながら客席にいたのは殆どが頭髪が白いシニアばかり。本作の面白さをもっと若い世代に伝えるのもまた我々シニアの責務と感じました。