「音を見る映画」テーラー 人生の仕立て屋 にゃろめさんの映画レビュー(感想・評価)
音を見る映画
洗練された道具の奏でる機械音や、
職人の業が織りなすリズミカルな音は、
しばしば音楽のようにも感じる。
冒頭からほぼ台詞(声)は無く静かに時が流れる。
その描写に、妙に引き込まれてしまう。
そしてそれこそが、この映画の魅力。
私は日本語しか話せないので、
海外の映画を見ると字幕を追って
映像の細かな描写や、
俳優の表情の演技を見逃してしまいがちだが、
そこを見逃さずに堪能できるのも評価が高くなるポイント。
寡黙なニコスだけに、音楽は特に重要で
登場人物の心情をよく表している。
自然の音に合わせた楽器の音、
そこからつながるBGMは実によくできている。
音のトーンやピッチの合わせ方が見事で
サウンドコーディネーターは苦労しただろう。
「仕立屋」と言えば、オールドファンは、
ルコントを思い出すだろうが
”どうかそっち方面(ロマンス)へは行かないでほしい”
と思いながら見てしまっている。
そしてそれは”お隣のお嬢さん”のおかげで
コミカルに回避されるのだが、
奇妙な三角関係によってやはりそっち方面へ
行ってしまった。
あの”お嬢さん”のイライラはどっちに対しての
イライラだったのだろうか。
「ニコスを取らないでお母さん!」なのか、
「お母さんを取らないでニコス!」なのか。
そういう心の不協和音を、音による不協和音で
巧みに表現しているところも見どころ。
希望が垣間見えた、お隣さんとの新規事業は
銀行の差し抑えという現実で長続きせず。
それでも「お母さん何考えてるの?」
「あなたのことよ」という
それぞれが着地すべきところに帰り、
”それでも人生の仕立ては続いていく”という
爽やかなラストには好感がもてた。