「MVPはおまさ」鬼平犯科帳 血闘 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
MVPはおまさ
十代目松本幸四郎が、五代目の鬼平を演ずる鬼平犯科帳でした。既にCSの時代劇専門チャンネルで第一作目「本所・桜屋敷」が放映され、それに続く二作目でしたが、長年鬼平と言えば二代目中村吉右衛門が演じていたので、そのギャップを如何に埋めるか、もしくはオリジナリティを追求していくかと言うのは、制作サイドにとっても、観る者にとってもポイントになっていたように思います。で、十代目幸四郎版を2作鑑賞した結果、その他の出演陣も含めて、総合的に観て中々練れてきたように感じたところです。
劇場版となった本作は、密偵のおまさを主軸にした物語でしたが、吉右衛門版でおまさを演じた梶芽衣子のイメージが、吉右衛門同様に非常に印象的で、色気満点の独自固有なおまさ像だったのとは対照的に、今回おまさを演じた中村ゆりのおまさは、どちらかと言えば原作のイメージに近い若さを感じるおまさであり、また彼女の演技が非常に良かったので、個人的に本作のMVPを差し上げたいと思いました。
主役である十代目幸四郎に関しては、これまで鬼平を演じた八代目松本幸四郎、丹波哲郎、萬屋錦之助、二代目中村吉右衛門が、いずれも武骨で男っぽさを感じる俳優だったのと比べると、色男、優男の部類に入る感じなので、正直微妙に感じています。年齢的なものなのかと思い、歴代鬼平の役者が初演した時の満年齢を調べてみたのですが、八代目幸四郎が59歳、丹波哲郎が53歳、萬屋錦之助が48歳、二代目吉右衛門が45歳、十代目幸四郎が51歳と、特段若いこともなくほぼ平均であり、やはり役者としての個性と鬼平と言う役柄に、若干のアンマッチがあるように感じざるを得ませんでした。勿論歌舞伎界のトップランナーの一人である当代幸四郎ですから、今後独自固有な鬼平像を創っていくものと思いますし、それを期待して止みません。
若き日の鬼平である”本所の銕”を演じた十代目幸四郎の実子である八代目市川染五郎の方は、無頼な蛮勇を上手く演じていて、30年後の鬼平役に期待が持てました。まあその頃には私がこの世にいないでしょうから、観ることは叶わないでしょうが・・・
それ以外の俳優陣では、”うさぎ”こと木村忠吾の浅利陽介や、”相模の彦十”の火野正平、”久栄”の仙道敦子らが、それぞれ個性を発揮していい演技を見せてくれました。一方、木村忠吾以外の鬼平配下の与力、同心たちは、本作ではあまり個性を発揮していなかったので、今後の活躍に期待したいと思います。
あと、音楽についてはもう少し頑張って欲しいと感じました。吉右衛門版のメインテーマにせよ、エンディングのジプシーキングスによる「インスピレーション」にせよ、これを聞けば鬼平と分かる程に人口に膾炙された曲でした。あれを上回るのは中々難しいとは思いますが、是非匹敵するような曲を当てて貰いたいと思いました。
今後は引き続き時代劇専門チャンネルでシリーズ化されるそうですが、そちらへの期待を込めて、本作の評価は★4とします。