劇場公開日 2022年2月25日

  • 予告編を見る

「猫の人情噺も悪くない」ボブという名の猫2 幸せのギフト 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5猫の人情噺も悪くない

2022年2月26日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 監督が代わったせいか、前作に比べて全体的に穏やかだ。社会問題の作品から人情噺に変わった感じで、これはこれで悪くない。それでも、前作で描かれたロンドンの格差問題や麻薬禍のシーンはしっかりある。
 まず序盤でホームレスのストリートミュージシャンが警官に押さえつけられている場面。街角で演奏したくらいで地面に押さえつけられるのは、ホームレスだからだろう。警官は役人だからヒエラルキーに無条件に従うように出来ている。弱い者に強く、強い者に弱い。ホームレスみたいな最弱の相手には暴力も辞さないのだ。ロンドンでもニューヨークでも東京でも同じである。
 麻薬禍のシーンは一瞬だけだが、麻薬の常習者や売人にとって、麻薬から足を洗った人間は「向こう側」に行ったみたいで、不愉快で目障りなのだろう。主人公のジェームズは中毒ではなくなったのだから、本作品ではこのシーンだけで十分なのだ。

 主演のルーク・トレッダウェイは前作と同じく好演。味のある歌声も健在だ。社会に揉まれていないジェームズが時折見せる子供っぽさも上手く演じている。この人はハリウッドのB級映画には向かないが、これからも文学作品や人情物に出演し続けるのだろう。いい俳優さんである。

 動物愛護について、日本とかなり異なるところがあった。ジェームズが猫を飼える資格があるかどうか、ボブが猫としての満足な生き方ができているのかどうかなどを、当局が調べるというのだ。確かに日本でも、ペットを飼って、飼いきれなくなったら捨てるという身勝手な飼い主の問題がある。
 だからといってちゃんと面倒を看ている飼い主を当局が判定して合格不合格を決めるのはやりすぎだろう。そんなところに貴重な税金を投入するのが理解できない。もしもジェームズにボブを飼う資格がないと判定されたら、ボブが当局によってどんな目に遭わせられるのか心配だ。イギリスの保健所は野良犬や野良猫の殺処分はしないのだろうか。獣医は当局は動物をいい環境に置くはずだと言っていたが、それもまた税金がかなりかかる話である。当方には信じられない。
 飼い主の資格を判定するよりも、愛護動物を流通段階で取り締まる方が楽だし合理的だし税金もあまりかからない気がする。日本はそうやっているのだが、動物が高く売れるものだから、悪徳商人が違法に動物を売買するのだ。麻薬と同じである。

 動物を飼う覚悟がある人が飼う資格がある人だと思う。どんなにお金持ちでも、覚悟のない人は飼う資格がない。ジェームズはボブを飼うというよりも、ボブを相棒にしている。それだけで飼う資格は十分だ。要するにそういう映画である。

耶馬英彦