劇場公開日 2022年7月23日

  • 予告編を見る

「常識に挑む独創性と、意外なほど真っ当な映像センス。新しい邦画を求める映画好きなら見逃せない」猫と塩、または砂糖 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5常識に挑む独創性と、意外なほど真っ当な映像センス。新しい邦画を求める映画好きなら見逃せない

2022年7月24日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

笑える

楽しい

幸せ

端的に言うなら「新感覚のホームコメディ」ということになろうか。監督の小松孝は、早大在学時にシナリオ研究会に所属、デイトレーダーで失敗、ニート生活という変わったキャリア?を経て、PFFアワード2016でのグランプリ獲得を受け、PFFスカラシップ作品として制作した本作で40歳にして商業映画デビューとなる。

タイトルに含まれる「猫」は、監督のニート時代が反映されたであろう主人公・一郎(田村健太郎)が、買い物やゴミ出しなどの軽作業で母(宮崎美子)を手伝うほかは家でゲームなど好きなことをしてごろごろしている状態を“職業”とうそぶいて命名した言葉。一郎はたとえば、サラダに塩ではなく砂糖をかけてみる。世間の常識に挑む一郎(そして小松監督)の姿勢が題名で示されているのだが、けっして頭でっかちで偏狭な作品ではなく、ほどよいユーモア感覚と意外なほど真っ当な映像センスと軽妙な編集テンポで楽しませてくれる。

アル中でやはり家でごろごろしている父(諏訪太朗)とで、世の常識からは外れているものの一応の均衡が保たれた穏やかな暮らしを送っていた佐藤家に、母の元恋人の男(池田成志)とその娘(吉田凜音)が居候することに。5人の奇妙な同居生活はやがて、互いの関係性を、そして個々の生き方を変えることになる。

わかりやすい成長物語ではないけれど、「家族の役割ってなんだろう、親子の関係ってなんだろう?」と、多くの人が日常の中で当たり前すぎて深く考えないテーマに気づかせてくれる。理屈っぽいところもあるけれど、ポップにまとまっていて、笑いもたくさん。新しい邦画を求める映画好きなら見逃せない快作だ。小松孝監督の今後の活躍にも大いに期待する。

高森 郁哉