「偶然偶然また偶然。偶然のオンパレードなんですが、その偶然の数々を目立たないように料理してみせたのが、このラブロマンスを4000万部も売った原作家の腕だったのでしょう。」エマの秘密に恋したら お水汲み当番さんの映画レビュー(感想・評価)
偶然偶然また偶然。偶然のオンパレードなんですが、その偶然の数々を目立たないように料理してみせたのが、このラブロマンスを4000万部も売った原作家の腕だったのでしょう。
映画のオープニングで、主人公のエマがプレゼンテーションに失敗し、出張先でクライアントを失って落ち込んでしまうシーンがあります。
この時にやらかした大失敗は、たしかにありえる大失敗なのに、映画を観ている側の意表を突いた見事な大失敗で、おおいに驚き、苦笑させられ、おかげで一気にストーリーに引き込まれました。
落ち込んでしまった彼女が帰路の飛行機でファーストクラスにアップグレードされるのも偶然なら、隣に座っていたのが自分の会社の、顔も知らないトップその人だったのも偶然。
その人が若くてイケメンで鍛え上げた体の持ち主で腹の筋肉が割れていたというのも偶然。
飛行機が乱気流に巻き込まれたのも偶然で、彼女が飛行機が死ぬほど嫌いだったというのも偶然。
しかし、キッカケはなんであれ、自分の秘密を最大漏さず誰かに告白してしまったら、告白された側とのあいだに気持ちのつながりができてしまうのは、ある意味で当然なのですね。
この、二人の気持ちがつながる瞬間を観客に共有させたお蔭で、誰もが納得するこの一点をテコにして、すべての偶然のあり得なさはブッ飛ばされ、あとは二人がきゃーきゃー言いながら、ブランコのように、接近し、離れ、接近し、そしてついに両思いの愛情が成就するのをニコニコしながら楽しむっていう趣向の映画です。
主人公のアレクサンドラ・ダダリオは表情がクルクルと百面相のように動いて、愛らしいだけでなく力強くもあり、楽しみな女優さんだと思いました。
主人公の同居人の日系人役のキミコ・グレンも、日本のイメージをとことんまでブチ破ってくれていて、ザ・脇役としてのキャラが立ち過ぎていて面白かったです。
というか、出てくる脇役たちが揃いもそろって徹底的に脇役脇役しており、主人公アレクサンドラの引き立て役に徹しているのが、映画のプロというか、すがすがしい限りでした。
もっとも、アレクサンドラ自身が製作総指揮の一人でもあるので、自分の周りを「引き立て役」だけで固めたのは、自分を売り出す一環なのかも知れませんが……。
というわけで、頭の中をカラッポにして、いいねー、若い人は羨ましいねーと、じいさんのように呟きながら楽しめる映画だと思いました。