劇場公開日 2021年1月1日

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「『RAW 少女のめざめ』に通じる痛ましさと切り立った孤独が印象的、逆に男性にとってものすごく痛い作品」Swallow スワロウ よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0『RAW 少女のめざめ』に通じる痛ましさと切り立った孤独が印象的、逆に男性にとってものすごく痛い作品

2021年1月15日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

ニューヨーク郊外、河岸の小高い丘に建つ邸宅に暮らす主婦ハンター。父親が経営する企業の常務である夫のリッチーのもとで何不自由ない生活を送っているはずの彼女だったが、その見た目の華やかさとは裏腹に孤独感に苛まれていた。ある日堪えがたい衝動に駆られてビー玉を飲み込んだハンターはその苦しみと引き換えに得たものに惹かれ、次から次へと異物を飲み込むようになっていくが・・・。

ふとしたきっかけで始まりエスカレートしていく奇行は『RAW 少女のめざめ』に通じる痛ましさに満ちていますが、本作で露わになるのは切り立った孤独。物語が進むにつれておかしいのはハンターの周囲にいる人達の方であることが少しずつ明らかになっていき、歪んだ世界と均衡を保つための手段が異食であることが解ると一気に物語に取り込まれてしまいます。周囲の誰にも理解されないハンターが意外な協力者の力に助けられ全く想定外の手段で自分の中に燻っていたものと折り合いをつけるクライマックスは爽快感とは無縁ですがずっしりと思い余韻を残します。

徹頭徹尾美しい映像は恐らくフィルム撮影によるもの。ざらついた冷たい質感がハンターの孤独感を端的に表現しています。『マグニフィセント・セブン』では勇敢に戦うヒロインを演じ、『ガール・オン・ザ・トレイン』や『ハードコア』ではミステリアスな女性像を体現したヘイリー・ベネットが本作で見せる繊細さとタフさは実に美しい。製作総指揮も兼任する彼女が本作で表現したかったことに多くの女性が深い共感を覚えると思いますし、同時に男性には痛烈に突き刺さる作品になっています。冒頭に出てくる子羊のステーキが出来るまでの一部始終を眺める映像に予め本作のテーマを滲ませている点も鮮烈でした。

よね