「秘密を持つことで人は自分を保つ」Swallow スワロウ ymさんの映画レビュー(感想・評価)
秘密を持つことで人は自分を保つ
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美しい哀しい映画です。誰もが羨む生活の中で何もしないただ美しい妻としていることだけを求められているハンターの冒頭の「間違いたくない」というセリフに現れる強迫観念が、彼女の出生それ自体が過ちから起こっているという構図がとても考え深いものでした。
義母から貰った本で何かに挑戦しよう、と書かれているのを見て、愛しているはずの男の子供がいる体に異物を入れ続ける背徳的な行為に走り、しかしそれが彼女の自信と自我を保つ秘密になっていく様はホラーと言うよりもただ静謐なドラマで忘れ難い映画でした。違和感が生む慢性的な心の痛みに比べれば異物を飲み込む瞬間の痛みも彼女にとっては自信を生む秘密の儀式の一部として大事なものだったと思います。
個人的には途中でてくる夫の同僚が彼女にハグを求める描写は大事なシーンだったと感じました。初めは自分はリッチーの妻だと言って拒むハンターですが、彼が「孤独なんだ」というと受け入れます。自分と重ねた部分があるのでしょう。しかし別の日に同じ男は別の女にも全く同様に声をかけています。彼は孤独かもしれないが、それは手近なもので慰めることができ、本当の意味で1人ではない。その部分はハンターとの対比の気がします。だから彼女は秘密が明るみに出た時も大騒ぎしないで、大事にしないで、と繰り返したのでしょう。自分だけの秘密の儀式が自分を保つ。この真実に心当たりがある人もきっと多いと思います。
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