劇場公開日 2020年11月13日

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「1種、2肥、3作り」タネは誰のもの Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

4.51種、2肥、3作り

2020年11月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

少し前、この映画の山田プロデューサーの著書「タネはどうなる?!」を読んだが、自分には何が問題なのか、何を信じればいいのか、正直なところよく理解できなかった。
しかし、現在、半数の都道府県で改正種苗法に“対抗”するための条例が制定あるいは制定予定であり、客観的にみても異常な状況であることは、自分にも分かる。

例えば、「品種」と「特性」は異なるらしい。また、(不当にも廃止されてしまった)種子法と種苗法の違いも、素人には分かりにくい。
食物という最重要問題にもかかわらず、国民的議論が盛り上がらないのは、政府によるメディアコントロールもあるにせよ、話にピンとこないことが一因ではないだろうか。
あるいは、農業団体の既得権益を打破する政策だと、勘違いしている国民も多いのではないか。「公共財なんて、“民間”にどんどん解放すべき」などと騙されると、酷い目にあう。ここで言う“民間”とは、普通の農家のことではないからだ。
この映画を観て、そのあたりのことが、自分なりにクリアになった気がする。

何より良いと思ったのは、農家や研究所などの“現場の声”が、映像としてダイレクトに聞けたことだ。
どんなに議員や学者や評論家が、書いても、語っても、それだけでは国民は判断に困るのである。
マスメディアが取材しても、政府に“忖度”して、農家の本音はなかなか出さないであろう。ドキュメンタリー映画だからこそ、可能なことだ。

映画は、山田プロデューサーが、静岡(函南町)から始まって、茨城(笠間市、大洗町)、北海道(芽室町、北竜町、当麻町)、種子島、栃木(大田原市)、埼玉(三芳町)、広島(東広島市)など、各地を回って聞く話で構成される。

特に印象的だったのは、三芳町の農家の話であった。
農業は、「1種、2肥、3作り」と言うそうだ。
タネを人任せにするのはアマチュアであって、品質第一のプロのやることではないという。
そして、仮にコストをかけてタネを買って、何年もかけてその土地にあった品種を選んでも、種苗会社が採算に合わないとして売らなくなると、突然手に入らなくなるリスクを抱える。

仮に“国内”品種が保護されても、今のスキームでは育成権者が儲かるだけで、普通の“国内”農家にはデメリットしか残らない。
各地の気候や土壌に根ざしたタネの改良は、個々の農家の企業努力の最たるものだろう。資本力のない普通の農家は、タネを他者に握られてしまえば、高品質で競争力のある作物の開発はあきらめざるを得ないはずだ。

ドイツでは、バイオテクノロジーを使わず、「交配又は選別」のような“自然現象”に基づく“本質的に生物学的な”育成だけで得られた作物に対しては、特許権が及ばないという。
EUのルールにも縛られているドイツでできて、日本でできなくなるのはなぜだろう?
国内品種の保護が“本当の”目的であれば、関係の無い作物まで“登録”で制約されないように、他国のように例外規定を整備する必要がある。
デメリットを修正しようとしないのは、TPPやRCEPなどの枠組みを推進するため、農業を犠牲にしようとしていると考えざるを得ない。

自分もまだ完全に理解できてはいないものの、種子法廃止から種苗法改正への一連の流れが、「売国」政策であることは、おそらく間違いないと思われる。

Imperator