「イ・ビョンホンの名演を堪能し、感慨に耽る」KCIA 南山の部長たち 和田隆さんの映画レビュー(感想・評価)
イ・ビョンホンの名演を堪能し、感慨に耽る
韓国の実話を基にした映画の腹の括り方(覚悟)には毎回感服させられる。1979年10月26日に韓国の朴正煕大統領が、右腕とも言える中央情報部(通称KCIA)部長キム・ギュピョンに暗殺された。大統領はなぜ暗殺されたのか。映画はこの事件発生の40日前から真相にスリリングに、サスペンスフルに迫っていく。
原作はキム・チュンシクによるノンフィクション「実録KCIA『南山と呼ばれた男たち』」。メガホンは「インサイダーズ 内部者たち」で、財閥と政治家の癒着による巨大権力の腐敗を描き高い評価を得たウ・ミンホ監督がとった。「KCIA 南山の部長たち」の全編を貫く重厚なトーン、カメラワークや光と影にこだわった照明、そして79年当時を再現した美術など、そのクオリティは極めて高く、フランシス・フォード・コッポラ監督の「ゴッドファーザー」(1972年)のような質感と展開に圧倒される。
しかし、何と言ってもこの作品の見どころはキム・ギュピョン部長を演じたイ・ビョンホンの名演に尽きるだろう。「インサイダーズ」でも組んだミンホ監督と息もぴったりで、キム部長の揺れ動く心情を、無表情のようでいて、瞳の奥や表情のちょっとした動き、またその背中で力強く、そして繊細に表現し、説得力を与えている。
パク・チャヌク監督の傑作「JSA」(2000年)で、共同警備区域の若き兵士を鮮烈に演じていたイ・ビョンホンが、20年の時を経て、大統領暗殺者の役を演じているのがとても感慨深い。本国で大ヒットし、ビョンホンが百想芸術大賞主演男優賞を受賞したのも納得である。彼の成熟した名演を堪能でき、韓国史を知る上でも必見の作品だ。
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