「痺れるセリフのための作品」ウォー・オブ・ザ・ワールド R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 痺れるセリフのための作品

2025年8月3日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

以前一旦見るのと止めた作品
解説にあったH.G.ウェルズ原作の「宇宙戦争」のリメイク
少し前にイギリスのリメイク作品を見たが、その世界観は非常に矮小的で、それより前に作られたトム・クルーズ主演の宇宙戦争と比較にならないほどのものだった。
これもそうかと、思っていたが、意外に素晴らしい作品に仕上がっていた。
このリメイクは原作を元に書き直され、その骨格だけを残したものだろう。
さて、
政府機関であるテロ対策班の主人公ウィル
彼は日ごろからハッカー集団の「ディスラプター」を追いかけていた。
政府が指示を出し、このハッカー集団を逮捕せよとの命令でウィルは行動している。
そのため、実際にアサンジやスノーデンがリークした政府による市民の監視等々を、ウィルが行っている設定だ。
ところがウィルには父という責任が常に付きまとっている。
死んだ妻との約束
しかし「子育ては難しく」彼らを監視することが彼らを守ることに繋がると信じている。
それしか方法はなかったとも言い訳できる。
故にウィルは仕事中でも娘や息子の監視をし、電話で指示までする。
当然疎ましがられている。
そして、「ゴライアス」 政府の監視システム
ゴライアスはアメリカ国土安全保障省(DHS)が運用する極秘の監視プログラムで、地球上のすべての人間の行動をリアルタイムで監視できる能力を持っている。
そしてこのゴライアスという名称は、映画『スノーデン』(2016年、監督:オリバー・ストーン)に登場する架空のシステムとして描かれているが、これは実際にスノーデンが暴露したNSAの監視システムの象徴的・比喩的な表現と考えられている。
この一貫したシステム上の設定をこの作品に使用しているのが面白さのひとつだろう。
「宇宙戦争」では、人間そのものが宇宙人の食料とされた。
しかしこの作品では、彼らはデータそのものを食料としていた。
その背景にあった生物とサイバーのハイブリッド
昨今開発されたナノボット
そして陰謀論であるところの「この地球に山や森は存在しない」 動画のタイトル
この考察を簡単にいうと、大昔の地球には炭素がなく、巨大化した木々はすべてシリコーンで出来ていて、だから地球に来たタイタンたち(巨人)は半導体の材料のためにすべての木々を切り倒し、資源を採掘しつくした。
珪化木とは、シリコーンの木の枝を打ち払った残骸
タイタンたちはシリコーンの生成のために地球に大量の炭素を持ち込み、その後の進化に繋がった云々というもの。
これらのことが下敷きになっているのだろう。
ウィルが追いかけていたディスラプターの正体は息子だったというのも良かった。
反抗軍
政府は政府の都合のために市民を監視するプログラムを組み立て実行していた。
そもそも宇宙人は、地球に存在する集合的意識のようなものに興味を持ち、それを吸収・同化するために来訪。
彼らの母星では、すでに物理的資源は枯渇しており、情報や感情、記憶といった非物質的なエネルギーを糧とする文明へと進化していたということが想像される。
モノクロ写真時代とデジタル時代の人類の「データ」量は遥かに大きく巨大になっていた。
政府は彼らを誘い込むようにゴライアスを敷いて「餌」を撒いたのだ。
それは、政府が宇宙人に対し交信または取引を試みたと示唆されていた。
ここがこの作品のわかりにくい点で、そのことと政府を相手に戦う ー 宇宙人を撃退するという具合にロジックがつながりにくい。
ここだけが惜しい点だった。
ウィルは息子のディスラプターと手を組んで、宇宙人をウィルスで撃退することを試したが、ハイブリッドである彼らにコンピュータウィルスは効果がなかった。
だから「データを共喰い」させて消去してしまう、昔のウィルス「ラビット」を直接ゴライアスに入れることを考えついた。
そこだけが「アクション」になっていて、その他はすべて「机上」というわけだ。
ここがこの作品のボーリングな部分で、受け入れられない人が多い理由だろう。
当然ミッションは成功し、宇宙船は「宇宙戦争」のように崩壊する。
最後に主人公はヒーローになるが、アメリカ国土安全保障省(DHS)の新長官代理のオファーを断る。
「市民を監視するシステムではなく、あなた方を監視する側に回る」
この言葉こそ、この作品が最も伝えたかったことだった。
最初からそこだけに焦点が絞られ、この言葉のためだけに作品が作られている。
なかなか痺れる言葉だった。

R41