「監督の前作『ゴッズ・オウン・カントリー』と見比べてみては?」アンモナイトの目覚め 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
監督の前作『ゴッズ・オウン・カントリー』と見比べてみては?
1840年代のイギリス南西部にある海辺の街で、海岸の岩場で見つけて来た石から丹念にアンモナイトを探し出し、それを店で販売して得た僅かな収入を糧に、年老いた母親と暮らしている独身の古生物学者、メアリー。そこに現れる化石収集家の夫から虐げられている若い妻のシャーロット。そんな2人がやがて惹かれあい、密かに愛を紡ぐことになる。13歳の時に重要な化石を発見しているメアリーは、今の時代ならばこの分野で幅広く尊敬される対象だが、19世紀の男性社会ではその偉大な功績も女性だからという理由で軽んじられているし、シャーロットが夫から受けている屈辱的な扱いは文字にするのも憚られるほどた。意外にも実在の人物がモデルだというメアリーとシャーロットに映画的な脚色を施し、性差別の実態を描きつつ、2人に愛を与えて救済しようと試みたのは、前作『ゴッズ・オウン・カントリー』(4月2日より再上映中)ではヨークシャーの牧場で出会った男たちの愛をテーマとして提示したフランシス・リーだ。2作は風景も見た後に残る後味も異なるが、厳しい現実に立ち向かっていく恋人たちを見守ろうとする監督の眼差しは同じだ。ただし、ユーモアが皆無な分、本作『アンモナイトの目覚め』の方が視線が冷ややかかもしれない。できればこの機会に見比べてみてはいかがだろうか。
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