「19世紀を舞台にした今につながるお話。」アンモナイトの目覚め kumiko21さんの映画レビュー(感想・評価)
19世紀を舞台にした今につながるお話。
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言葉を多用して解説するのも野暮であると思わせられる、臨場感と絵画的フレームの両立した映像の構築美に圧倒される。2大女優の共演は濃厚で見応えあり。メアリー(ケイト・ウィンスレッド)の醸し出す年輪の深さが1枚上手だったかな。衣装の華美さも種類も全く対照的なのだけど、今風に言えば持たざる人の「ミニマムファッション」の方が人の記憶に残る機能美の極致である。
同時代の画家・ターナーの作品を思わせる海、場所は違えど『ピアノ・レッスン』を思い起こさせる暗い海岸、今でも英国人に内在化してそうな階級意識に基づくシンプルなプロット。
アンモナイトのメタファーは見る人に委ねられる。気の遠くなるような年月、ずっとそこにあったものに気づき、丹念に手をかけて驚くような価値を見える化する。その主体はアカデミックのど真ん中にいる人ではない。名誉は忘れられ、全てはお金に換算されていく。
単純な男尊女卑社会においてこそ共感しあえる同性愛の安らぎ、とだけ見て本質を見ないのはもったいないように思う。後半、無意識の差別構造は入れ子になっていることに軽くショックを受ける。籠の中の鳥にあっさり戻ったシャーロット(シアーシャ・ローナン)は「たかが使用人よ」と、メイドをあっさり切り捨てる。ラストにかけての二人の意識差が哀しい現実を見せてくれるけれど、アンモナイトを間に置いた二人のラストカットに希望を見たと思いたい。自由か金色の鳥かごか。ノマドランドを思い出した。
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