劇場公開日 2021年11月12日

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「現在進行系の女性の主権、主張、をSFに落とし込んだ作品」カオス・ウォーキング つまり枝豆さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0現在進行系の女性の主権、主張、をSFに落とし込んだ作品

2025年3月24日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

スター・ウォーズでおなじみ、「強い女性の理想像」として知られるデイジー・リドリー。そして主役には、『スパイダーマン』でナヨナヨ系男子のイメージが定着しているトム・ホランド。

初見の印象は、現実社会における男尊女卑、あるいは現在進行形でアップデートされ続ける「強い女性像」を、SFに落とし込んだ“今っぽい”作品だなということです。

作中の世界では、男性だけが「ノイズ」という形で思考を垂れ流し、女性にはそれがない。つまり男性は常に「発信力」を持ち、女性はその影響を受ける側。SNS時代の“声の大きい者が支配する”構図を彷彿とさせます。
主人公が暮らす村は、男性たちが作り上げた“旧世界的”な共同体で、女性は排除され、力を持たない存在として描かれています。

そこに突如現れる、金髪の美しい女性、リドリー演じるヴィオラ。まるでキリストのような、救済者的イメージです。そして彼女と行動を共にするのが、純粋無垢で経験のないトッド(ホランド)であることにも意味がある。キャスティング段階から、「童貞的純粋さ」がこの物語に必要とされていたことが伺えます。

さらに、主人公の育ての親が自らの過ちを悔い、犠牲となる展開や、火によって罰を受ける男性の姿など、宗教的なモチーフも随所に散りばめられています。

物語の終盤では、「新世界」を導くリーダーとして黒人女性が登場。これも近年のハリウッドの“意識的な多様性”を感じる部分です。

スパクルという異星人種の描写も象徴的でした。彼らは“異質なものへの恐れ”の具現化のように見えます。キリスト教圏が抱える、他宗教(イスラム、ネイティブアメリカンなど)や異文化(日本における近隣アジア国)への無意識的な拒絶感が、ここに投影されているようにも感じました。そんな偏見に対し、ヴィオラは「石を投げるな」と、まさにキリスト的な教えを説きます。

そして悪は滅び、天から与えられた救済者によって、新しい世界が創られる──というラスト。ただ、続編を匂わせてはいたものの、実現の可能性は低そうです。

トム・ホランドは、ティーン層には人気があるものの、まだ俳優としての深みはこれから。デイジー・リドリーも今回は物語上、あまり目立った活躍がなく、観ている女性層には物足りなかったかもしれません。
監督のダグ・リーマンといえば『ジャンパー』のようなシンプルなバトルアクションが持ち味ですが、今回は中途半端に叙事詩っぽさを狙った結果、盛り上がりきらない展開に。興行的にもヒットせず、宣伝費を考えると赤字でしょう。続編はなさそうですね。

つまり枝豆