「ファンタジー的な要素とリアルさが同居するのが山田監督らしく、俳優たちも素晴らしい」キネマの神様 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
ファンタジー的な要素とリアルさが同居するのが山田監督らしく、俳優たちも素晴らしい
山田洋次監督による2021年製作(125分)の日本映画。配給:松竹
心に染みる良い映画だった。ただ、沢田研二はめちゃ頑張っていて立派とは思ったが、あて書き脚本に思えるだけに、志村けん主人公で是非見てみたかったとは思ってしまった、合掌。
原作は読んでいないが(原作とはかなり異なっているらしい)、映画ファンの気持ちを揺れ動かす、上手い良く出来た脚本と思った。主人公である助監督だったゴウのアイデア、ヒロインが画面から出てくるというモチーフが、最後に生かされるのが何とも鮮やか。
山田演出のなせる技なのか、人選の凄さなのか、ゴウの妻となる永野芽郁、親友テラシン役の野田洋次郎と小林稔侍、大女優役北川景子、いずれも素晴らしい演技で感心。特に永野に片想いをする冴えない映写技師役の野田洋次郎のナチュラルに感じる演技には驚かされたし、大女優の我儘さと凛とした佇まいの両方を醸し出した北川景子の演技もお見事と、唸らされた。
テラシン野田洋次郎から見ればキラキラの才能に見えたゴウ菅田将暉。ただ、いざ監督となった時に、大女優役北川景子の心配通り、緊張のあまり下痢は起こすし、演出案にカメラマンから少し異議を言われただけで不貞腐れ、挙げ句の果てに怪我をして入院し、撮影所を辞めてしまう。そんな彼だが、撮影所前の小料理屋の看板娘の永野芽郁には一途に想われる。結婚相手としては、彼女に恋心を持っていたテラシンの方がずっと良いのにとは思ってしまう。山田洋次がずっと、テラシン的な視点で見てきた世界だからだろうか、何だかやけにリアルで、自分の心にも染みるところがあった。
映画監督の夢破れギャンブルに明け暮れる借金まみれのゴウ。妻や娘にもすっかり見放されているが、ゴウの脚本を読んだ孫の勇太(前田旺志)が、その内容に感銘。勇太が現代的視点からゴウの脚本に手を入れて、城戸賞ならぬ木戸賞に応募し受賞する。孫に脚本を認められ一緒に作品を練れたのは、彼にとって最高の幸せだったと想像できる。家族をずっと描いてきた山田監督作らしく、素敵なファンタジー的な展開であった。
監督山田洋次、原作原田マハ、脚本山田洋次、 朝原雄三、プロデューサー房俊介、 阿部雅人、撮影近森眞史、照明土山正人、録音長村翔太、美術西村貴志、編集石島一秀、音楽岩代太郎、主題歌RADWIMPS feat.菅田将暉、VFX監修山崎貴。
出演
沢田研二円山郷直(ゴウ)、菅田将暉若き日のゴウ、永野芽郁若き日の淑子、野田洋次郎若き日のテラシン、北川景子桂園子、寺島しのぶ円山歩、小林稔侍寺林新太郎(テラシン)、宮本信子円山淑子、リリー・フランキー出水宏監督、前田旺志郎円山勇太、志尊淳水川、松尾貴史キャメラマン・森田、広岡由里子淑子の母、北山雅康借金取立人、原田泰造家族の会主催者、片桐はいり常連の女性客、迫田孝也、近藤公園、豊原江理佳、渋谷天笑、渋川清彦、松野太紀、曽我廼家寛太郎、前田航基。