「上映中はお静かに」キネマの神様 ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
上映中はお静かに
自分は感動系、泣かせに来る映画は基本的に苦手です。今作はRADWIMPSの主題歌や野田洋次郎さん、菅田将暉のファンということもあり鑑賞。映画を作る映画では同日公開の「サマーフィルムにのって」の後に見たので期待半分不安半分で鑑賞。
率直に言って面白くなかったです。原作は読んでいないのですが、かなり改変、というかコロナのシーンは完全にオリジナルで仕上がっているのでまぁタチが悪いです。
コロナが世の中に蔓延している世の中という舞台設計を活かして、リモートで物語を進めた「真・鮫島事件」とは違い、今作は明らかに後付けでコロナのシーンを入れています。序盤では、1年後にコロナで大変なことになっているという囁き、終盤ではクルーズ船でクラスターが発生、授賞式に際には、緊急事態宣言前でありながらマスクをつけている人とマスクをつけていない人が混在、ラストシーンでは思いっきりコロナ禍。映画館の存続の危機を回避するために、クラウドファンディングをやるなど、昨年ミニシアターを救うために動いていた人々を描くのですが、原作にはコロナの要素は全くないみたいなので、完全に別物になっています。ここがこの作品の怒りポイントです。
全体的に回想の50年前の役者陣は良かったと思います。特に永野芽郁さんの愛くるしさはとてもお見事でした。菅田将暉さんも映画作りへの情熱が伝わる澄んだ目をしていて、好青年を演じさせたら敵なしと言っていいくらいの好演でした。現代の方は、沢田研二さんのセリフの語尾が不安定で気になったり、前田旺志郎さんのそういう役柄なのか元のポテンシャルなのか分かりませんが、舌ったらずなシーンが多く、とても見づらかったです。
キャラクターについてですが、ゴウはただただ不快なクソ親父でした。50年前あれだけ映画作りに燃えていた青年が(ギャンブルの話を少しばかりしていましたが)、50年後博打にしか取り柄のないクソ親父に成り下がっていたのかが分かりません。自分に他に何が残っている?と聞かれた時に「映画しか残っていない」と言いましたが、マジで50年何やってたんだ?と訳が分からなくなりました。それ以外のキャラクターも演者の演技あってこそ成り立っていましたが、振り返ってみると強く印象に残っているキャラはいませんでした。
昭和を舞台にした回想の方も、時代錯誤のせいか映画の撮り方がなんだかきな臭く、役者をただの小道具にしか思っていない描写には腹がたちました。演者が頑張ってひとつのピースが完成するのに、それを蔑ろにするのはいかがなものかなと。あとゴウが映画界から去るのを決めたのも、駄々をこねて舞台から落ちて怪我したっていうのはギャグにしかなってないです。
ここまで批判ばかりあげてきましたが、終盤はもっと酷いです。ゴウと勇太が共同脚本で仕上げた作品が、賞を受賞するも、ゴウはその晩から飲んだくれになり、さらっと30万を使う大バカものです。テラシンに映画館の存続代として渡す時に70万になっているというこれ本気でやっているなら正気を疑うものになっていました。挙げ句の果てに持病は再発しますし、病院内ではギャーギャー喚きますし(これはテラシンにも非がある)
最悪だったのがラストシーン。テラシンの劇場で映画観ながら死ねたら本望と言ったら本当にその通りになるという。上映途中に入る謎プレイングから、上映中にも関わらず大声で祖父孫がベラベラと喋るという、映画を好きな人は嫌いな行為を映画内で平気でする辺り、狂ってんなと思いつつ、最終的に銀幕から自分の作った映画の中から役者が飛び出て、映画作りの情熱を持ったゴウを銀幕の中へと連れていき、現代のゴウは死ぬという、騒いだ挙句、これじゃただの迷惑親父です。こんなもの美談で描けるのは本当におかしいです。
総じて時代にミスマッチしている映画だなと思いました。山田洋次監督作品の家族観の描き方にも大なり小なり疑問を抱いてしまいました。歳を重ねるとこういう作品も楽しめるようになるのかなとも思いました。
主題歌はとても良かったです。
鑑賞日 8/9
鑑賞時間 14:05〜16:30
座席 H-4