「素直な跡取りアゲ太郎のモラトリアム期と街おこし。」とんかつDJアゲ太郎 movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
素直な跡取りアゲ太郎のモラトリアム期と街おこし。
継ぐものがある者にとって進路選びには迷いも惰性もあるだろう。
アゲ太郎は渋谷で65年続く人気とんかつ店しぶかつの3代目。20歳前後のただの男子。
地元の本屋薬局旅館の息子達とつるむ毎日。
ところがある日、旅館の向かいのアパレル事務所で可愛い子が働いているところを目撃。山本舞香演じる、そのこちゃん。
更には配達を頼まれ、出向くとなんとクラブ。
DJのオイリーさんがしぶかつ好きで、配達を頼んでいたようだ。流れで見学したオイリーさんが作り出す会場のアゲ空気の中にはなんとその子ちゃんも!
みんなが楽しむ空気に圧倒されて、アゲ太郎はDJになる事を決意する。
DJのなり方もわからないアゲ太郎はまずオイリーさんに弟子入りを頼み、一度は断られるも懐事情の厳しいオイリーさんは結局友達同士のたまり場、旅館の物置に転がり込んでくる。アゲ太郎はとんかつ店の手伝いとDJ練習をDJKOOのビデオを見ながら掛け持ち。
冒頭の、家業とんかつ店を手伝うときも、ただやるばかりで、店内やお客さんの反応を観察して配慮するなんてできなかったアゲ太郎とは人が変わったように、ビートに乗りながら流れるように仕事をこなしていく。
息子が継ぐか様子をずっと見ていたお父さんも、お、これは、と成長が嬉しくなる瞬間。
オイリーさんが頼み込んでくれたおかげでトントン拍子に渋谷のクラブで新人デビューも決まるが、オイリーさんの言う通り。クラブのステージはそんなに甘くはなかった。
初舞台にテンションが上がり、周りの反応を見ずにどんどん1人で音楽に入り込んでノリノリになっていくアゲ太郎と、決め込んだいつメン親衛隊がくりなす場違いなとんかつコールに、周りはテンションが下がり、出ていく人波や野次。
すっかり落ち込むアゲ太郎だったが、励ましてくれたその子ちゃんと、会場に仲間達が頭を下げてくれたおかげで、新人オーディション参加の機会を得る。
渋谷の個人店を継ぐ仲間達として、お店のアピールをしたり、とんかつを作る時の卵を混ぜたりキャベツを切ったり、揚げたり、切ったりの音を使って曲をかけずにリズムミキシングをしたり、自由に表現し場を盛り上げるアゲ太郎。途中から、有名DJヤシキもやってきて、2人でパフォーマンス。
盛り上がった早朝、クラブに来ていた客が流れてくる形でしぶかつは盛り上がっていた。
新人オーディション優勝はしなかったが、イベントに紹介してくれたのに顔に泥を塗ってしまったオイリーさんは、またDJに復帰できる事を予感させるラスト。
アゲ太郎は父から初めて、キャベツの千切りではなく最重要工程、揚げ場を任され、油の音をしっかり聞いて人生初の一枚を揚げた。その瞬間、その子が店に!
全部叶ってよかったねというハッピーエンドだった。
北村匠海が俳優と音楽をどちらも手抜きせず両立させてきたからこそ、演技とDJの両立を見込まれたんだなと思うし、猫DJみたいなやつ?とかヒロインその子に聞かれて何のことかわからないそぶりをしているが、DiSHの猫とかけてるよね?
ちょっとさえない系の普通男子が覚醒する役がとってもよく似合っている。
周りが、伊藤健太郎と山本舞香、伊勢谷友介。。
地上波には乗らないだろうから、見られてよかった。
周りを囲む大人達が、青年期を経験してきた自身と重ねるのか、時にいい加減だったり時に根拠のない自信に溢れているアゲ太郎をしっかり観察しながらも、叱責などせず語らずに見守っているのが良かった。
家業があり、焦らずに自分探しできる環境にいるアゲ太郎はラッキーだが、最終的に「フロアもとんかつもぶち上げられる男になりたい」は、無闇に任せずキャベツ係を全うさせながら成長を確信できるまで待ってきた父親の教育が実った瞬間だろう。
ブラザートムの父親姿、大きな目だけで語っていて良かった。
小さい頃からしぶかつの様々な調理音とリズムを聞いて育ち、千切りやつなぎやぬか床など地道にリズムを刻んだり正確な作業をしてきた忍耐と訓練が、DJという道で活きるなんて、ある意味英才教育で素晴らしい。
父が学んで欲しかった、お客の反応を見て雰囲気を読むという要素は、DJで学びしぶかつに相乗効果が起こるだろう。顧客も循環する。素晴らしい街おこし。
駅周りは再開発で駅ビル乱立の流れ、もうお腹いっぱい。駅ビル通路を抜けずとも、駅から出たらすぐに活気ある個人店が立ち並ぶ、そういう光景を取り戻したいなと思う。
見えない目撃者以来、見るのも怖くなってしまっていた浅利航大が出てきて、うわっギブアップかもと思ったが、大丈夫だった。