劇場公開日 2020年10月30日

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「深いところで繋がっている、トンカツとDJ」とんかつDJアゲ太郎 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0深いところで繋がっている、トンカツとDJ

2024年7月16日
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鑑賞方法:映画館

名前だけは知っている。だが漫画を読んだこともアニメを見たこともない。そんな「とんかつDJアゲ太郎」。予習ほぼゼロ。でも、面白かったよ!

「とんかつとDJは似ている」「とんかつもフロアもアゲられる男になる」などと、予告編でもパワーワード全開で、「本当に(劇場で観ても)大丈夫なの?ついていけるの?」と不安を感じていたものの、見事にアゲられた身としては全く心配いらなかったな。
思った以上に青春でラブコメな「カラッと楽しめる」エンターテイメントに仕上がっておりました。とんかつだけに。

駅もリニューアルして、若者たちが大挙する街・渋谷と、道玄坂を更に奥へと進むと現れる庶民的な面影を残す裏渋谷・円山町。
主人公・揚太郎はそんな円山町のとんかつ屋三代目。とはいえ、やってることはキャベツの千切りと皿洗い。
「やりたいことがないから、とんかつ屋を継ぐ」っていう後ろ向きな将来。揚太郎にとって、反発して茨の道を進むのはめんどくさい。かといって必要以上に継ぎたいオーラを出すのもめんどくさい。
自分の腕一本で商売を立ち上げた初代、親父の背中を純粋に追いかけた二代目、そのどちらにもなれない「未来の見えない」三代目、という立ち位置が今風でとても絶妙。

そんな揚太郎のすぐそば、道を一本挟んだ向こう側は流行と娯楽が目まぐるしく交替していく渋谷で、揚太郎や4人の三代目仲間たちとは全く違った世界を生きている人たちの世界だ。
たまたま届けたロースカツ弁当が、揚太郎とDJという存在を出会わせることになる。

道の向こう、揚げた豚など食べないであろう「この世のバグ」である苑子ちゃんに、気に入ってもらいたい…!
メチャクチャわかりやすい動機と、揚太郎を支える三代目仲間たちの迷サポートと、流浪のテキトー師匠とが絡み合い、クスリと笑わせられる。
それでいて「とんかつとDJは似ている」という、揚太郎なりの生きるテーマが「しぶかつの客席」と「クラブイベント」が何度も交錯する演出によって観客にも刷り込まれていく。

「お客さんを楽しませたい」という思い。それこそが「フロアを盛り上げる」というDJの素養でもあり、美味しいとんかつを提供する上で大切なこと。奇しくも揚太郎が「思った通りに」やろうとしたことこそ、二つの世界、そのどちらでも人々の心を盛り上げる要素なのだ。
出来すぎ?強引?エンターテイメントはアガってなんぼ。文句を言ってテンション下がるより、ノリにノッて楽しむ方が100倍ハッピーだ。

劇中かかる楽曲も良い。特に「My Sharona」は1979年の曲だけに、当時のノーテンキな雰囲気が揚太郎たちの子どもっぽい能天気さともよくマッチしてるように思う。
まあ、もともと好きな曲だからかな。
さらに劇中で苑子が着ている「昨日でも明日でもない、今」とプリントされたTシャツもなかなかにエモいよね。
グッとくるというか、しみじみするというか、良いなって思う一方で、身の引き締まる思いもあるというか…、「エモい」って便利な言葉だな。

今の価値観と古い価値観。夢と家業。クラブのイベントで盛り上がる人々と、美味しいとんかつを食べたい人々。
相反するようでいて、どこか繋がっている。どっちかを選ばなければならないのではなく、そのどちらも同じように、自分のなかにあるがままに受け入れて良い。
ちょうど「とんかつ」が「ジューシー&クリスピー」なように、ちゃんと共存出来るから。
とりあえず、今夜のメニューはとんかつで決まり!

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つとみ