劇場公開日 2021年12月17日

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「淡々とエビデンスを読み解いていく地味なドラマなのに猛烈なカタルシスに帰結する忖度のソの字もない実話ドラマ」ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0淡々とエビデンスを読み解いていく地味なドラマなのに猛烈なカタルシスに帰結する忖度のソの字もない実話ドラマ

2021年12月22日
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鑑賞方法:映画館

オハイオ州の大手弁護士事務所に勤めるロブ・ビロットのもとに大量のビデオテープと資料を携えた見知らぬ農夫が訪ねてくる。ウェストバージニア州からロブの祖母の紹介で来たというウィルバー・テナントが持ってきたのは自分の農場がデュポン社の工場からの廃棄物で汚染されたという物証。村の弁護士に相談したがデュポン社に忖度して誰も調査を引き受けてくれないので彼をロブを頼ってきたという。しかしロブはまさにデュポン社をクレームから守る立場にある弁護士であり、真逆の立場を取ることは出来ないとウィルバーを追い返す。しかし、どうしてもウィルバーが言っていることが気になり彼の農場を訪ねたロブはそこで彼の農場の牛が190頭も病死しており、彼の農場以外でも様々な異変が起こっていることを知る。ウィルバーからかつてデュポン社が環境調査を実施したことを聞いたロブは早速デュポン社に掛け合い調査報告書のコピーを取り寄せるがそこに書かれていたのは全くのデタラメだった・・・からの実話ドラマ。

環境保護活動家としても著名なマーク・ラファロが10年以上の年月を懸けてデュポン社と法廷闘争を展開したロブの活躍を知りプロデュースを買って出たという渾身の作品。デュポン社が何かを隠蔽していることを確信したロブの資料請求に応じたデュポン社から届いたのは大きな会議室を埋め尽くすほどの書類の山。徹底的にエビデンスに当たり論拠を積み上げていく地道な作業には途方もない時間がかかる一方でロブの依頼人は貧しく立場の弱い農場主なので成功報酬のみという条件で弁護を引き受けたためロブは自分の生活までも犠牲にしなければならなくなる。この辺りの描写は沈痛で胸が痛くなるほどですが、その地道にも程がある努力がついに明らかにする事実に胸が熱くなります。

この手の社会派ドラマは法廷シーンがメインとなりますが、本作で尺が割かれるのは積み上げられた資料の精査と有害物質による健康被害に苦しむ人達との対話。それだけ聞くと退屈に思われがちですがそこが実に丁寧にスリリングに描写されていて全くダレ場がないタイトな演出になっています。ロブを演じるマーク・ラファロのひたむきな演技が圧巻であることは言うまでもないですが、ロブの妻サラを演じるアン・ハサウェイ、ロブの上司を演じるティム・ロビンスをはじめビル・プルマン、ビル・キャンプといったベテラン勢のリアルな演技はどれも素晴らしいです。さらにはロブ夫妻本人や実在の被害者達によるカメオ出演もドラマをしっかり盛り上げます。

ドラマとは直接関係ありませんが、何気ないパーティの場面での給仕達の表情や会議シーンでの若手弁護士の発言、ロブが乗っている車の変遷といった画面の隅を彩っているものも観客に語りかけてくる感じも本作の特徴、この辺りが今回初鑑賞となったトッド・ヘインズ監督の作家性かもと勘繰っています。

どうにも取り繕いようのない辛辣な現実を忖度なしでエンターテインメントに昇華するハリウッドの製作陣の鼻息の荒さを感じる力作です。

よね